◆◆◆ これは偶然とも言うべきなのだろうか/CASUALLY RENOUNCE ◆◆◇

何かのトラブルにより、人間は同族とのえんを容易く切断してしまう事をする。
今までの共にした時間がまるで嘘であるかのように、軽々と切れてしまうのだ。
まるで、特にこれと言った補強も施されていない薄い紙のように。

分厚い絆を構築するには、手間と時間を要求するが、それを破壊するのは恐ろしい程に簡単な話。
この二つの差はあまりにも巨大であり、人間はここに細心の注意を払うべきなのだ。
だが、そこで人間は過ちを犯してしまい、取り返しの付かない事をしてしまう性格を持ち合わせてしまっているのだ。
それは、まるで神様による余計な贈り物。

えんと言う頑丈な城壁が崩された理由は他人が触れるべき箇所では無い。
それを理解し、頭へ取り入れた所で何があると言うのか。
しかし、崩壊した所でそれが永久的に相手と対面しなくても良くなる理由にはならない。

友情関係が崩れた所で、互いにその肉体を失う事はまず有り得ない。
それが指し示す意味とは、両者とも、この世界のどこかに身体を置いていると言う話である。
同じ地面に足を貸している以上、必ずどこかで、とある条件が揃った時に
否応無しに顔を合わせなければいけない時が強制的に襲ってくる。

それは最早、神の悪戯いたずらとして半ば無理矢理自分の中で認めるしか無いのかもしれない。
外の環境を理解している者ならば、我侭を言わず、今取るべき行動を即座に見出す道を選んで欲しいものである。





これが今、とある破壊された建物の中で繰り広げられている光景なのである。











「あれ? レベッカ……なんであんたこんなとこいんのよ?」

 驚くのも無理は無いだろう。偶然トラックで突っ込んだ建物の奥に設置されていたドアの先には、いつの日か出会った金髪の長髪と青眼を携え、濃い緑色のダブレットと白に近いベージュのズボン姿の少女がいたのだから。

 ミレイは先程の逃走劇カーチェイスによって軽く頬に汗を垂らしながら、目の前にいる背中まで伸ばした長い髪の少女に声をかける。

「そう言うあんた達こそなんでこんな所来たのよ? 会うのも凄いやだったんだけどね?」

 実際突然現れたのはミレイ達だろう。壁を突き破ってそして逃げ道としてこのドアの先の部屋に現れたのだから、驚くのはレベッカの方でまず間違いは無い。

 そして、当のレベッカはミレイをいやしい目で睨みながら、言った。



「そんな事よりさあ、今あっちで凄い火が上がってっから、君もえっと、逃げた方いいぞ!」

 レベッカに避けられているのは分かっていながらも、アビスは閉めたドアに向かって右人差し指を差しながら、レベッカにこの場所から離れた方が良い事を伝える。

「ご親切にありがとう。所で、あんた達はどうするのよ? あんた達と一緒に行くなんてごめんだからね」

 敬意のまるで見えない淡々とした言葉による礼の後、レベッカはまさか同行と言う事は無いだろうかと、眉を潜める。



「あたしも正直あんたの事なんて大っ嫌いだけど、今かなりマズい状況なのよ。こんなとこ一人でブラブラしてたらいつ連中に襲われ――」
「ごめんだわ! なんであんたみたいな奴と逃げなきゃならないのよ!?」

 ミレイも実の所はレベッカに対して良い印象は抱いていない様子である。過去に揉め事があったらしいのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

 それでも今のアーカサスの街の状況は混乱が溢れている状態だ。孤独に逃げるよりは、誰かと共に行動した方が良いだろう。何かあった時に助けてくれる人間がいるのがどれほど心強い事か、そこはある意味では飛竜を相手にした狩猟とどこか共通点があるのかもしれない。



「あのさあ、今そんな『やだ』とか言ってる場合じゃないのよ! あんたも助かりたいんでしょ? だったら今は互いに我慢してとりあえず一緒にここ――」
「なんであんたと逃げなきゃなんないのよ!? 冗談じゃないわ!」

 ミレイのその我慢を貯めたような提案をレベッカは受け入れようとしなかった。怒鳴り立てながら、ミレイに向かって右手を捨てるように払う。



「冗談とかじゃなくてさあ、今の状況分かってんでしょ!? こんな言い合いしてる場合じゃないのよ!!」

 いくら互いに既に縁を切っているとは言え、いつ巻き込まれて命を落とすかも分からない状況で口論をしている余裕は無い事はミレイにも理解しており、とりあえずはここでは互いにこらえ、同行すべきだと考え、結局の所ミレイも怒鳴り声を上げる。

「逃げるのはいいけど、あんたとは絶対無理だから! それに元々アタシはここで黙って隠れてたってのに――」



――突然ミレイの手がレベッカの腕を掴み……――



「いいから!! 逃げるわよ!! アビス付いてきて!!」

 普段からどこか他者よりも勝ち誇ったような青い瞳をしたレベッカよりも更に威圧的に尖ったミレイの青い瞳はレベッカの気迫にまさり、嫌がる相手を強引に引っ張ったのである。

「あ、ああ!!」

 突然走り出したミレイに焦りながら、アビスは思いつきの返事をとりあえずしながら、すぐに自分自身もその足を走らせ始める。



「ちょっと何するのよ!? あんた何様のつもりよ!!」

 強引に引っ張られ、強制的に走らされるレベッカはミレイから上目線でものを言われているような気分になり、無理矢理走らされながら、ミレイを罵倒しようとするが、それでもミレイの手から力が抜ける事は無かったのだ。

「今にその口聞けなくな――」

 相変わらずミレイは恐れる様子も見せず、それ所か、何か裏に深い意味が込められているような台詞を飛ばそうとしたが……



―ドカン!!



短く、そして大きな音。
それはドアを強引に蹴り開けられた音である。



「いたぞ! あいつらだ!」

現れたのは、バンダナマスクで目元から下を隠した男達であり、その内の一人が指を差しながら他の者に伝える。

「おれらの車盗みやがって! ただじゃ置かねぇぞ!」

彼らがあの時ミレイからトラックを奪われてしまった連中かは分からないが、どちらにしても捕まればただで済むとは思えない。





「まっ、こう言う事よ!」

ミレイはレベッカの腕を離さずに走ったまま、どうしてこのような行為に走ったのかを、
今の光景を見せる事で知らせてみせる。

「何勝ち誇った態度見せてるのよ。あんたのせいだからね!」

とは言うものの、結局の所はミレイの行為によってあのバンダナマスクの集団が現れたのだ。
レベッカは今の状況をミレイのせいにしながら、引っ張られ続ける。

「あたしのせいで結構! 兎に角今は逃げる事だけ考えて!」

ミレイは今となっては何を言われても気にしないのだろう。
目の前に敵が迫っているのだから、今ここで何を言われていようが気にする余裕すら無いのかもしれない。

何故か今のミレイにはレベッカを守り通す義務を背負っているようにも見える。



「逃げれっと思うなよぉ!!」

――もう遠くは無い男の怒鳴り声

――そして投げられる硝子製・・・の……



―バリィン!!

―ブオォアア!

割れる音の後に広がる赤い炎。
逃げる三人の背後に纏わりつく熱気。
恐らく周囲の設置物に引火したに違いない。



「うわぁなんか来たぁ!!」

同じく逃げるアビスは後ろに一瞬だけ視線を飛ばし、
これからまた新たな恐怖が始まる事を意識し、高ぶった声を飛ばす。

「大丈夫よ! あれならいつか視界も悪くなっから!」

ミレイも背後から炎の気配を感じつつも、逆にその武器として使った気体が
彼らの進攻に支障をきたすものとして一種の期待を考える。



――炎が上がれば、相手からの視界が悪くなり、見失ってくれるだろう……――



きっとミレイはそんな事を考えていたが、詳しく説明をしている余裕は無い。
アビスがそれに気付いてくれているか、ある意味で心配である。

「おらぁ! 逃げんなぁ!」

――再び投げられる火炎瓶

逃げる三人へと飛んでいくが、三人は被害を負う事は無かった。



■■ 三人は次の部屋へ続くドアの先へ逃げ込んだからだ



投擲とうてきされた火炎瓶はドアの横に立つ壁に直撃し、
そこから炎が噴き上がる。

まるでドアから奥に続く道を完全封鎖するかのように立ち上がる炎は
例え投擲主アタッカーであるバンダナマスクの男達でさえ通す事はしない。



「あ、あのさあ、あそこあんな感じになったけど、もう何とか大丈夫じゃね?」

燃え上がるドア付近を見るなり、アビスはもう相手がこれ以上迫ってくる事は無いだろうと
推測し、僅かに呼吸を乱しながら、走り続けるミレイに喋りかけ、ミレイの足を止める。

「え? あ、ああ、確かに大丈夫かも。にしても随分派手ねぇ……」

アビスの声を聞いたミレイはふと背後に目をやるが、
そこに映る熱い光景を見るなり、確かにこれでは敵もこれ以上は
やって来ないだろうと、ゆっくりとレベッカの腕を放す。



「呑気に感想なんか残してる場合? 全部あんたのせいなんだからね」

一応助けられた身であるのにも関わらず、それでもレベッカにとってはミレイは
嫌悪すべき存在である為、ミレイの台詞一つ一つに批判を飛ばしてしまう。

「はいはい、ずっとそうやって言ってれば? まあとりあえず3人いれば安全だとおも……!」

既にミレイはレベッカのその横暴な態度に対して諦めているようである。
それでも人数は多い方が何かと心強いだろうと考えたその矢先だった。



◆▲ 炎の奥レッドフラッシュに映る、赤い人型の何かグリッターモニュメント…… ▲◆



炎を超えるのは厳しいものがある可能性があるが、
その奥で何かしらの行動を取る事は出来るだろう。

その何か・・・・は、何故か炎の目の前で立ち尽くし、
そして、何故か3人を見ているようにも感じ取る事が出来る。



――それよりも、ミレイの口が止まった一番の理由としては……



ミレイは炎の奥から、何かを突き付けられたかのようなおぞましい殺気を感じ取ったのだ。

数秒後に、何かが飛んでくるような……



ε そして、赤い光景の中に浮かぶ白い顔のような物も……



――同時にミレイは……



「レベッカ!!」
「なっ!」

ミレイは突然レベッカをドアの方向に対して横に突き飛ばし、そしてミレイ自身も
ドアの方向に対して横へ――レベッカとは逆の方向――その身体をずらす。

レベッカは突然のその行為に短い声を発するが、その前にとんでも無い物が2人の間を通り過ぎる。



―シュン……



ρ ρ 先端の尖った、硬質物体ハードドメスティック



τ 通常、それは人間では無く、もっと強大な生物デーモンを倒すのに使う……

υ そして、人間ヒューマンを狙うにはあまりにも巨大過ぎる……

φ ついでにこの物質は軽々と遮蔽物を貫通する厭世の賜物ガーディアンクラッシャー……



「!!」

―バスゥッ!!

ミレイの予測通りだったのだ。
目の前を巨大な弾が通り過ぎ、そして衝突した壁に大きく、そして汚くじ開けられた穴を刻む。

人間がそれを受けた時の被害を想像するまでも無い。

ミレイの、驚きとおののきによって鋭くなった青い瞳がそれを物語る。



「やばいわね……。これってボウガンの弾よ!! こっから離れっわよ!!」

ミレイはすぐに気付いたのである。炎の奥に狙撃手ガンナーが潜んでいると言う事を。
こんな所に長井していれば、いずれは土にころされてしまう……



――だからこそ、ミレイは言葉を飛ばし、駆け出したのだ



「マジぃ!? 殺されっじゃん!!」

アビスは直接回避行動には走っていなかったものの、光景はしっかりと目に焼き付けていた。
だからこそミレイのその発言の強さの意味が理解出来る事だ。
徐々に燃え上がる建物の中で再び駆け出すミレイに続いてアビスも走り出す。

「ちょっとどこ行くのよ!?」

炎が立ち上がっている以上、逃げる為のルートは限られている事だろう。
レベッカも恐らくは本心では無いにしろ、逃げる方向が一緒だからか、
先に行ってしまおうとしているミレイ達に一声飛ばしながら、同じく駆け出す。



■ しかし、発射口はまだ完黙では無い/CHATTER FATE ■



▼η▼ 次の弾が飛んでくる!! ▼η▼

――貫通弾ドリルショット!!



「うわぁ!」
「!!」

アビスとミレイの間を通り過ぎた弾丸は風圧を二人に提供し、そのまま無造作に壁にぶつかり、先程と同じ穴を残して動きを停止する。

アビスは驚きをそのまま言葉で表現し、ミレイは両目を強く閉じただけで声自体は出さなかった。



――足を止めれば、殺される……!――



*** ***



元々室内と言う事があり、何とか次の部屋へと逃げ切る事に成功し、
同時に貫通弾による狙撃も停止したのである。

「最悪ね……。とりあえずさあ、んと、アビス、まず他の皆と合流しよ! 絶対ここいるからさあ!」

とりあえず逃げ切れたのは良い事ではあるが、自分達が狙われていると言う事実は
この空気を考えれば非常に不味いものである。

その為、しばらく逃走を続けなければいけないのかと、ミレイは頬に垂れる汗を左手で軽く拭きながら、
アビスにこれからの予定を勧める。

「でも、どうやって探す?」

アビスとしては否定の感情を抱いていないようではあるが、当ても無いのにどうやって
膨大な広さを誇るアーカサスの街で数人しかいない自分達の仲間を探し当てるのか、そこに気が行ってしまう。

「でもって……、えっと、あ、そうだ、さっきギルド行くってあたし言ってたわよね? 車ん中で」



――ミレイはあの小型トラックで話していた事を思い出したのだ――



危うくトラックに乗車している最中に話し合っていた事をまたここで同じ話をしてしまう所だったが、
その最中にミレイは思い出せたのである。

「あぁ、なんか……言ってたよな?」

アビスはしっかりと話を聞いていたのだろうか。もし否定をすれば緊張感の事でミレイから
怒られてしまうのでは無いかと思ったかのように、つまづきながら返事をする。

「だから、まあさっきも言ったけど、じゃあギルド向かおう! レベッカもそれでOKよね?」

あの炎に包まれた部屋から相当離れた部屋にいるのだから、
追っ手が迫ってくる危険は低いと考えていたのか、
ミレイは足を止めてこれからの予定を改めて決定し、そして絶縁関係であるはずのレベッカに対して笑顔で返答を求める。

「なんで勝手に決めるのよ? 嫌いな奴と一緒にいたらロクな事起こんな――」
「まだんな事言ってんの!? ってかさあ、一応、一応なんだけどね……」

レベッカの頑固ぶりにミレイも再び声を荒げ出すが、何かを伝えたげに声の高さを落とし、
懇願するかのようにレベッカに向かって目を細める。

「何よ?」

やや苛立たしい雰囲気の籠った返答をレベッカは見せる。

「もうこうやって互いに睨み合うのもうめにしない? 正直今思えばあれはあたしがちょっと悪かったからさあ、ね? この騒ぎ終わったらちゃんと謝るから、今は――」

ミレイはどこかレベッカに観念したかのように、この襲撃が収まった後にしっかりと謝罪をすると約束してしまうが……



―バキィン!!

―パリィン!!



炎が窓ガラスを突き破り、三人がいる室内が燃え始めたのである。
一体何が飛び込んできたのだろうか。

α 火炎瓶?

β 時折降り注ぐ炎の玉?

いずれにしても、もうこの場所は話場としての機能を失うだろう。
全身を黒く染められたくないのなら、早急に去るべきである。

「やば! えっと、兎に角ちゃんと謝っから、今は共行動ともこうどうって事で! いいわね!?」

自分達にもその熱が伝わる程の距離で炎が上がった為、話を切り上げ、レベッカの返答が来る前に再び走り始める。
アビスも共に走り始める。

「ふん……勝手にすれば?」

肯定として捉えるにはやや曖昧≪あいまい≫に聞こえる返事をレベッカはしながら、
同じくこの炎の立ち上がる室内から去ろうと、足を走らせる。



*** ***



「ああ怖かった……」

今は3人は建物の外へ避難した後だ。
アビスは燃え上がる建物を見るなり、単純な感想を口に出す。

「怖いのは誰だってそうよ? それより、行くわよ! 集会場!」

夜で薄暗い外に出ても危険はまだ去った訳では無い。
ミレイの催促の言葉によって、今度は外の街道で駆け抜ける事になるのだ。

「それよりさっきの奴らどうなったんだろ?」

一応アビス達は先程小型トラックで突っ込んだ道とは反対側の道に出たのだが、
やはり根に持った彼らを想像するとどこか恐ろしくなるのかもしれない。

「軍隊とかにやられてればこっちとしては嬉しいけどね。アーカサスもなかなかやるじゃん」

流石にもうこれ以上あのバンダナマスクを付けた連中とやりあう気はミレイには無いようである。
一応ミレイは病衣を纏っている身であり、そして、一応怪我人なのだ。

それでも正常な状態となんら変わりの無い手早さを見せるのは流石である。

「で、行かないと不味いんじゃなかったっけ?」

そこに入ってきたのは、レベッカの言葉である。相変わらず苛立ちが見えるも、彼女は僅かながらミレイに対して心を開いてくれたのだろうか。





忘れかけていたあの四人と一匹はドントフォーゲット・カルテット アンド パートナー





バブーン荒野で岩壁竜、そして青い亜人デストラクトと激闘を繰り広げたあの四人と一匹は今、
アーカサスの街の破壊された門――正門では無く、もっと別の門――から駆動車ジープに乗ったままの状態で
ようやく入った所である。

だが、相変わらず街の様子は混沌そのものであり、活気による騒動では無く、悲鳴や崩音で賑わっている。
正門から入らなかった理由は、そこは軍隊がほぼ独り占め状態にしてしまっており、
割り込むには危険が伴うからだ。

裏からなら門番等も特に待機している訳でも無く、大人しく入れる為に、選択した道である。



「ってかもうこれ暴動みてぇな感じなってんじゃんかよぉ!!」

 ジープの後部に乗っているスキッドは蒼鎌蟹のヘルムを外し、尖った印象を与える茶色い髪を風になびかせながら、周囲の燃え上がる建物を見渡した。

「おいおいこれぜってぇあいつ・・・の仲間やってっだろう……。調子こぎやがって……」

 フローリックは双角竜のヘルムを外さない状態のままで、この襲撃事件の関係者がデストラクトであると読み、ヘルムの間から映る目を細める。



「可能性は充分あるぞ。いや、寧ろあいつの仲間がやったって確信してもいいくらいだ」

 小さな両腕まえあし操縦桿ハンドルを握りながら、猫人エルシオはフローリックの考えが間違いと考えるには無理があるかもしれないと答えてみせる。

「でも、ミレイとアビス君……大丈夫かなぁ……? ミレイは一応入院中だし、そんな時に狙われたら危ないんじゃないかなぁ……」

 クリスは今回の依頼に同行しなかった二人の友人を思い浮かべ、心配になり始める。今襲撃をかけている連中が相手によって情けをかけるとも思えない為に、そのような感情になったのだろう。証拠に、少しだけ俯き気味になる。



「クリス〜お前そんな心配すんなって。あいつらならあいつらでちゃんと上手くやってっから!」

 俯くクリスの肩をスキッドの手がふざけ半分で叩き出す。それによって多少クリスの体勢が崩れるが、驚いた様子を見せながら崩れたそれを整える。

 そして、クリスの返答も聞かずに再び喋りだす。

「ミレイなんかアビスと比べちゃあもう化けもんみてぇな奴なんだしよぉ、あいつだったら襲われる所か逆に襲ってんじゃねぇの? それになんかピンチになったとしてもきっとだぜ、『きゃ〜アビス〜助けて〜』とか言ってアビスに助けてもらったりとかしてっかもよ!」

 スキッドはミレイの事をどのように見ているのかが、ここで証明されたような気がする。更にミレイの助けを求める時の声をわざわざ表現する為に元々低めな声色を無理矢理に甲高く出し、羞恥心の映らないような真似をし出す。



「そ……そうだよね! きっとミレイ達なら上手くやってるよね! アビス君もきっとミレイの為に――」
「いいや、アビスはぜってぇなんもしてねぇと思っぞ」

 スキッドから元気を貰ったのか、クリスは非常に早い時間でいつもの明るい雰囲気に戻り、アビスに助けられているミレイを想像してみるが、フローリックの遮りの言葉によってそれは中断させられる。



「なんでぇ?」

 突然の遮りに対して、スキッドはやや威圧的にその意味を求める。

「アビスよりつえぇ奴が、なんでアビスなんかに守られんだよ? 変だろ。それにあいつがいちいち『助けて』とかそんな漫画みてぇな事すっ訳ねぇだろ」

 フローリックはアビスよりも、ミレイの方が実力は上であるし、それにしっかりしている事はよく理解している。戦闘力も言動もしっかりとしている少女が窮地に追い込まれたからと言ってとりあえず弱者にでも頼ってみようかと言う考えは持たないだろうと考える。



「おれもセイムオピニオンだぜ? アビスはどうもウィークな部分持ってる訳だ。ガールフレンドに頼りっきりなのがもうアイズに見えてっぜ?」

 ジェイソンとアビスは実の所出会ってからまだそんなに時間は経っていないと言うものの、あの機関車内での出来事・・・・・・・・・を病院で聞いた時に、既にジェイソンにとってのアビスの人間像が出来上がっていたのである。

「え? いやそんな事は無いと思いますよ? アビス君だってしっかりちゃんと――」

 クリスは今はここにいないアビスの悪口を言う側には回りたくないと言う一心で、アビスのフォローに回ろうとするも、すぐに止められる。



「出来てっ訳ねぇだろ。賊4人組相手に女一人で行かせるような奴だぞあいつっつうのはよぉ。んで後からなんか出てきたデブ野郎も全部ミレイ一人にやらせたっつうじゃねぇかよ。んな臆病もんがミレイなんか守れっ訳ねぇだろ」

 フローリックもあのアビスとミレイの帰りの機関車内での出来事を思い出し、アビスの男としての質の低さを考える。それを考えればとても他人を守れるだけの力を持っているとも思えず、アビスを頼りない人間として捉える。

 そして再び続ける。

「っつうか逆にミレイに世話ばっかかけさせてんじゃねぇのか? それに今なんか一瞬だけミレイにキレられてっとこも想像出来たぞ。あんにゃろうだったらぜってぇ有り得っぞ」

 よほど自分の考えに自信を持っているのか、揺れるジープの後部でややのんびりと後方に流れる建物の風景に顔ごと目を向けながら言い切った。



「え〜? そこまで言いますか?」

 いくらなんでもアビスの事を低く評価し過ぎでは無いかとクリスは訊ねてくるが、幼い顔立ちを持った少女の外見的な効力はフローリックには通用しなかった。

「言うだろうよぉ。オレは結構あいつん事知ってっかんなあ」

 元々同じ村で生活してきた身なのだから、アビスの性格や行動力はよく理解している様子である。フローリックは余裕気な表情をヘルムの裏で浮かべながら堂々としている。



――だが、もうここでその話は打ち切られる事となる――



「お前ら、そろそろやめろ。なんか奥の方で妙な気配が来た」

 エルシオは運転を継続させながらも、街の奥でとある何かを感じ取り、後ろにいる四人に戦闘体勢を取るように伝える。

「もうそろバトルモードって意味かぁ?」

 ジェイソンはまじないの仮面のようなブランゴヘルムを嵌めながら、もう時期迫るであろう戦闘に備える。ヘルムの下から食み出る長い深紅の髪が風に揺らされる。



「そう言う事だ。敵は多分飛竜の力以外でこの街襲撃してんだろうが、やっぱ飛竜そのものも使ってるらしいな」

 エルシオはアイルーが持つモンスターとしての勘を働かせたのだろうか、遠方で感じ取ったものをジェイソンを含めた四人に説明する。

「何なんですか? その飛竜って言うのは。分かりますか?」

 このアーカサスの街に飛竜が来ていると言う事は分かったクリスであるが、詳しい詳細がその言葉だけで分かるはずも無く、もう少し何か分かる事が無いか、敬語を使って質問を投げかける。

「いや、厳密に区別すんなら飛竜っつうより鳥竜ってった方がいいかもな。オマケに毒の気配もしてくるが……」



――そのエルシオの感じた気配の正体は……――

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