――▼ππ▼ 毒薬愛好怪鳥/CRESTED WINGS ▼ππ▼――

敵もやはり相手がハンターである事を認識しているのだろう。

歩行生物バイオタンクや、飛行白獣プレインビーストの類でも人間どもには脅威を与える事が出来るだろうが、
やはりもっと身近にいる強大な力を使わない手は無いと言う話になるのでは無いだろうか。

街に飛竜の類が一頭でも紛れ込んだものならば、街人にとっては想像し難い絶句と表現出来るはずだ。
今、その想像し難い絶句がそこに現れようとしているのだ。







「お前ら! 準備は出来てっか!?」

駆動車ジープ操縦桿ハンドルを強く握っている、ベージュの毛並みを持ったアイルーエルシオは、後ろにいる人間ハンター四人に振り向く。

「うん! 大丈夫!」

α 赤殻蟹装備の少女こと、クリスは銀色の剣を左手で持ちながら頷いた。砥石といしで研がれた剣は鋭い輝きを見せている

「いつでもかかって来いって話だぜ!」

β 蒼鎌蟹装備の少年こと、スキッドはグレネードボウガンに通常弾が装填されているのを確認する

「言われんでも分かってるっつの」

ψ 双角竜装備の男性こと、フローリックは背中の斬破刀の柄に右手を伸ばしながら、前方を見ながら目を細める

「パレードになりそうだぜ、こりゃ」

ω 雪獅子装備の黒人男性こと、ジェイソンは両手に持ったインセクトオーダーをぶつけ合いながら、これからの戦いを期待する



殆ど人気ひとけの無い場所を走る駆動車ジープだが、奥の人気ひとけの感じられる街道付近では、
人々の叫び声スクリームと、とても人間のものとは思えない妙な鳴き声シャウトが響いている。

既に戦いは始まっているのかもしれない。ハンターが相手にするとして最も相応しい相手と。
奇妙な生物でも無く、人間と酷似した姿をした亜人でも無く、まさに最も相応しい相手が、奥にいるのだろうか。



――或いは……――



「向こう出っぞ! 降りる準備しろ!」

エルシオは加速装置を踏み込み、建物と建物の間を一気に潜り抜け、そして、戦場として
呼んでも間違いでは無い場所へと辿り着く。

「やっぱあんにゃろうか!!」

フローリックは後部から飛び降り、そして奥で暴れている何か・・を見ると同時に、乗車していた時に
エルシオから聞いた話を思い出し、それが的中した事を確認する。



――乗車中に、エルシオから聞いていたのだ。毒の怪鳥が迫っているだろうと……――



まさにその通りだ。

奥には人間と比較すると随分と大きな身体を持った何か・・が暴れているのである……





【飛竜・解体信書/Face up to menace】

正式名称/Practical name : 毒怪鳥・毒煙鳥

構成群/Bone type : 竜盤目

分類/Standing style : 鳥脚亜目

属性/Life quality : 鳥竜下目

生物分類/Organization graduation : 毒煙鳥科

全長/Span of body : 1013.7cm(about)

全高/Height of appearance : 457cm(about)

脚部の寸法/legs size : 130cm(about)

【飛竜・脅威呼ぶ威容/Fighting dignity】

Care pointT にわとりでも意識しているのだろうか。頭部に生えた鶏冠とさか
         この怪鳥のトレードマークとして見て取れる。
         表情そのものからは威圧感を感じないものの、未知なる力を覚えさせてくれる。

Care pointU お世辞にもスタイルは良いとは言えないが、それでもやや太った印象を感じるその胴体。
         だが、鳥竜のものとしてはガッシリとしており、戦闘力の高さを思い知らせてくれる。
         灰色の染まったその表皮はどこか柔軟で、斬撃よりも打撃に耐性を持つ傾向があるようだ。

Care pointV やや黒色を帯びた紫色の尻尾は、余計な甲殻や棘等が一切見当たらず、
         周囲からの攻撃に対しては非常に弱々しく見えてしまうが、やはり尻尾は尻尾なのだ。
         振り回されでもすれば近くにいる者は黙っていられるはずが無い。



【INFORMATION-END





「なんか見た感じ他のハンターとか苦労してそうだけど」

スキッドはヘルムの下で、毒煙鳥に武器をふるっているハンター達を確認するが、
やや押され気味であり、数人のハンター達が有利であるように感じ取る事が出来なかった。

「ぜってぇここ襲ってる連中が管理してる飛竜ヤツじゃねぇか? 面倒事増やしやがって……」

背中の斬破刀を取りながら、フローリックは今身体を左右に回しながら尻尾を振り回し始めた毒煙鳥を
見た途端に、このアーカサスを襲っている集団、そして荒野で戦った青い亜人デストラクトが頭に浮かび上がった。



「だとしたら、野生の毒煙鳥よりも手強てごわいって事ですか?」

低く、威圧的な声色とは対照的な、クリスの明るいとろける声色の質問がフローリックに届けられる。
何気無く口に出したであろうフローリックのその予測が、今目の前に映る毒煙鳥の戦闘力にどう影響するのかと言う
疑問点を作り出したのだろう。

「そじゃねぇか? 組織ん方で特殊訓練的なもん受けてねぇとも限んねぇしなあ」

フローリックの言った内容が一致していたならば、一般的にこの地に生息している種類毒煙鳥と比べても、
戦闘能力にはっきりとした差が見えてしまうかもしれないだろう。

もともとこれだけの巨大な街なのだから、防衛手段も非常に強力で激しいものが予想されるだろうに、
それを平然と相手にする組織なのだから、そこで飛竜を管理しているとなれば、油断は出来ない。



「そろそろレッツプレイとでも行くか? そんな事はなあ、実際にブレードまじえてからアンダースタンドするもんだぜ?」

ここで毒煙鳥が野生なのか、それとも組織に手を加えられたものなのか、推測しても何も始まらない。
始まるのは、実際に戦ってからだと、ジェイソンは雪獅子ヘルムの下で笑みを作りながら、右手の剣を空中で一回転させる。
戦ってみて初めてそこで理解出来るものなのだ。



――そしてフローリックは少年少女を見ながら――



「お前ら、毒煙鳥あいつん毒喰らってお陀仏んなんじゃねぇぞ?」

既に両手で斬破刀を構えた体勢で、フローリックはまだ未成年の年齢であるスキッドとクリスに
目をやりながら、彼なりの配慮を与え始める。

「喰らうかっつうの。こっちは遠距離だぜ? 範囲外にいりゃあ大丈夫だって」
「はい、充分注意します!」

スキッドは素直に聞き入れず、クリスは素直に頷きながら聞き入れる。



――未だ乗車したままのエルシオは……――



「お前ら、あいつは結構厄介もんだ。死ぬ真似だけはすんなよ……。して、注意もしとけよ」

そして、エルシオはそのまま駆動車ジープを操縦し、建物の影へと戻っていく。













――◆◇◆ 毒煙鳥遊ぼうやられなさい/PURPLE PAIN ◆◇◆――



「お前らぁ!! 一回どいてろ! 後はオレらがやっから!」

フローリックは毒煙鳥の周囲に群がっているハンター達に一声浴びせ、
そしてフローリック自身はその言葉の責任を全身で背負いながら走らせている足を止めずに突き進む。

「ダラダラしてる奴はバーデンだかんなあ!! おれらビリーブしろよ!!」

ジェイソンは雪獅子の武具が持つであろう重量を感じさせない速度で、
上半身を前方へ押し出しながら疾走し、周囲の押されがちなハンター達に一声飛ばす。



μ 既に戦っていたハンター達は…… μ

この街の命運を現れた四人に捧げ、毒煙鳥の視線を盗み、散り散りに距離を取り始める。



▼▼ρ 毒煙鳥の眼フラッシュソウルズに映るもの ρ▼▼

――戦いメレーを一度中断させ

――胴体ボディに対してやや小さな頭部ヘッドを横に向ける……

――そこに映るのは……

――迫るハンター達ニューウォリアーズ



ξ ξ 毒怪鳥毒煙鳥思考回路ブレインデータ ξ ξ

一度は停止させていたその身体を、再び燃え上がらせる。ハンターを倒すのは、自分自身の使命だからこそ、
標的が多少変化した所で躊躇してはいけない、いや、する必要はどこにも無い。

ただ、別の楽しみが生まれたと解釈しても差し支えは無い。





「スライスしてやるぜぇ!!」

ββ 最初に毒煙鳥へ到着したのはジェイソンだ

甲虫の羽根製双剣インセクトオーダーを交差させて構え、横腹目掛けて飛び掛る!!



――急接近と同時に――



ζ 斬り刻むスライシング!! ζ

左右へと斬り開くように広げられた両腕によって、ゴム質の皮膚に斬撃が加えられるが、
僅かに傷が入っただけで、終了の知らせが入る事は無い。

そんな事、言わなくてもジェイソンは理解しているはずだ。

「グッバイ!」

飛び掛った際の力量によって一時的に毒煙鳥に張り付いた状態となっていたが、即座に毒煙鳥を両足で押すようにして
後方へと下がり、毒煙鳥から距離を取る。



λ だが、そろそろ毒煙鳥も何か反撃をしなければ…… λ

毒煙鳥が攻撃対象に決めたのは、ジェイソン以外の三人であり、
後数秒もしない内に範囲内に入ってくる所である。

街道の方向に従うような向きとなり、そのまま巨体を走らせる。



―グァアアァアアァアァアアアアァアアァァァアァァアアアア!!!!!



鳥竜として相応しく、鳥に近い大声を発しながら、三人に向かって突っ走るのである。



「にゃろう!! 来たかぁ!」

目の前に迫る毒煙鳥に巻き込まれないよう、フローリックは左にずれて一度やり過ごそうとするが、
毒煙鳥はそのまま行く事は無かった。



――そもそもフローリックの元へ辿り着く前に……――



――低くではあるが、実の所は低空ジャンプを前方へかまし――



「危ない! 来るよ!」

クリスは毒煙鳥の奇妙な飛び方から、この次に何が迫るのかを予知し、
隣にいるスキッドに一声かける。

「マジか!」

スキッドも短く反応するが、その毒煙鳥の奇妙な飛び方とは……



――左方向へ身体をねじりながら跳んでおり……――



毒煙鳥が着地する直前に素早くクリスは左側へと駆け足で進み、
スキッドもそれに付くように同じ方向へと進む。



κ いざ、着地タッチダウン!! κ



ρρ そして捻られた身体に込められた意味が

今目の前で!! ρρ





――【延長されし震動提供スライド・ペイン】――

これは毒煙鳥なりのカッコつけパフォーマンスなのだろうか。
いや、きっとそうである。

着地すると同時に、その後部に伸びた尻尾を前方に目掛けて横振りにする。
その射程範囲は、

――半円を思わせるハーフ・ムーン

ひねった身体の勢いを使い、尻尾を自分毒煙鳥の身体の横を通し、
そして最終的には前方まで持ってきたのである。

伸縮性に富んだ尻尾は振られた反動で大きく伸び、脅威と化す。



「危ねっ!」

スキッドはすぐ背後で風を斬る音を響かせる尻尾に多少恐怖を覚えてしまう。
その後に響くのは、恐怖を表す声では無く、気合を表す声だ。



「小細工してんじゃねぇぞ!」

――毒煙鳥の横から入ったフローリックの斬撃!!

狙う場所は、ジェイソンが僅かに傷をつけた右部分の横腹だ。



傷は多少ついたものの、その太刀に宿っていた雷の力は殆ど効果を示さない。
雷とは、即ち電気であり、ゴム質のような絶縁体には効果は薄いのだ。
単純に、斬りつけるかどうかである。



続いてネクスト……



「はぁあああ!!」

クリスは左手に持った銀色の刃を右腕の腋の下に隠すように持って行き、そして
体勢を低めて毒煙鳥の足元へと突っ走る。

不動状態である事を感謝しながら、毒煙鳥の視界の下――死角とも言える箇所――から突き進み、そして、

――脚部を斬り付けるシルバーホープ!!――



――ナンダ?――

脚部に伝わった違和感を毒煙鳥がもし直接言語で表現するならこのような感じとなるだろう。
ゴム質の皮は脚部もしっかりと保護しており、僅かに傷が付いた程度であり、痛覚としてはまだまだの所だ。

通り抜けるように斬りつけたクリスはそのまま一度毒煙鳥を通り過ぎ、もう一人のハンターも、
攻撃の為にあの武器ボウガンを構え始める。



「くたばれぇ!!」

蒼鎌蟹装備で全身を固めたスキッドはたった今クリスに攻撃され、スキッドに対して後頭部を見せた状態となった
毒煙鳥の頭部を素早く狙い、引き金トリガーに力を込める。



υυ 通常弾ハスクシェル、発射!!



そこまで遠くは無い距離で、真っ直ぐと毒煙鳥の後頭部へと飛んでいく。
そして、命中ヒットこそするものの……



εε ゴム質の皮により、弾かれる



攻撃された毒煙鳥としては、後頭部に攻撃した愚者を始末してやろうと言う気持ちでいっぱいとなる。
後ろへ回していた頭部を前方に戻せば、犯人である蒼鎌蟹装備のスキッドがいるのだから。

毒煙鳥が取った行動は……



――【散逸の苦紫弾トキシックシークウェル】――

体内に溜め込んであるのは猛毒物質ポイズンエキス
毒煙鳥が毒怪鳥とあだ名されているのはきっとこれが理由だ。

スキッドに狙いを定め、一度上体を後方へと反り、大きく外気を吸い込む。
準備が出来たこの段階で、

οο 遂に……

οο 吐き出される!! οο

―◆◆ 紫に染まった球体ザ・ダスト・イン・ザ・パープルが落とされる!! ◆◆―



「げっ!!」

スキッドは過去に別の毒煙鳥と戦った過去を持っていたのか、その反り返る動作を見ると同時に
何をされるのかを予測し、素早く横へと走り、逃げたのだ。



―ボチャン!!



まるで巨大なしずくが落ち、水面みなもを叩くような音が地面に響く。
吐き出された塊は紫色に染まり、そして落下した地面周辺に毒液を散らす。
人間が浴びれば確実に全身をむしばまれるはずだ。



「余裕かましてんじゃねぇぞ!!」

毒煙鳥を相手に戸惑っている余裕では無いと、気合の入った声を飛ばしたフローリックは
毒の液体の落下地点から離れた場所から、毒煙鳥を狙いつける。



――狙う場所は……尻尾だ!!――



目の前に毒を吐き落とす為に尻尾の動きが緩くなっており、狙いを定める事が決して難では無い状態となっていた。
そこを見逃さず、フローリックは力強く斬破刀を縦に振り下ろす。



μ そこは硬質な甲殻や皮で護られていない剥き出し部分…… μ



―ガァアアアァアアア!!!



■■ 悲鳴にも近い毒煙鳥の鳴き声クライング・スクリーミング・ペイニング

切断とまでは行かなかったものの、相当な苦痛が尻尾に走り、全身に痛みが走り回ったのだろう。

その証拠が、今の甲高い鳴き声と、フローリックから距離を置くかのように横に向かってよろめいた
その動きである。
尻尾からいくらかの鮮血を流しながら、何とか体勢を整えようと必死な姿が痛々しい。



「テイクディス!!」

毒煙鳥に置いていかれていたジェイソンは雪獅子ヘルムの下で攻撃宣言のようなものを飛ばしながら、
自分の双剣インセクトオーダーの切っ先を毒煙鳥へ向け続けながら高速で駆け寄る。

そして、そのまま前方に向かって跳躍し……



――到着様に左右へと斬りつけるダブルスライサー!!――



右足の目の前に着地し、交差させていた両腕を一気に左右へと開き、目の前のものを裂いたのだ。
双剣そのものは一撃が軽くなりがちではあるが、そこはジェイソンの多少細いながらも鍛えられた腕力がものを言う。

斬撃と言う役目を一度終わらせたジェイソンに対し、攻撃を受けた毒煙鳥は反撃を試みる。



太った胴体を支える二本の脚が重たそうに動き出す。
分かるとは思うが、毒煙鳥は向きをジェイソンに合わせようとしているのだ。

「グッバイだぜ!!」

ジェイソンは軽く上を見上げ、見た目通り、見下ろしている毒煙鳥の頭部を軽く拝見した後、
一言挨拶を添えながら、左方側転で目の前からいなくなる。

ジェイソンがいなくなったその場所に落ちる……



――【地面を踏み鳴らす嘴サファーペッカー・シングル】――

遥か上部に位置する頭の先端にある、くちばしと表現するには何とも奇妙なその形のそれを
勢い良く地面に向かって振り落としたのである。

λ 上方に向かって反り返ったような形状が毒煙鳥のくちばしだ λ

人間が喰らえば致命傷になり兼ねないその重たい一撃を受けたのは、誰も立っていない空間である。
手っ取り早く言えば、誰も傷を受けていないと言う事だ。



「ついでにインタレストだぜ!」

側転によって足からしっかりと着地した後は再び毒煙鳥に向かい、
今度は横腹に狙いを定める。
ジェイソンはオマケを加えるつもりで再び毒煙鳥に接近したのだ。



振り下ろしていた頭を持ち上げようとしている毒煙鳥に再接近するジェイソンに握られる双剣が
鈍いきらめきを見せ付けてくれる、そんな時だ。



「たぁああ!!」

ジェイソンの反対側の方向から心地良く響く少女の気合。
それは、言うまでも無くクリスのものである。

φφ ジェイソンが右脚を狙っているのに対し…… φ φ

θθ クリスの狙う場所は左脚である θθ



ジェイソンにもまさるとも劣らない速度スピードで毒煙鳥へ接近し、そして目的の部分に
自分の得物を吠えさせようと縦に振る。



――左右から二種類の刃が迫る……――



――そんな時だ――



毒煙鳥は一対の翼に力を込め、やや肥えた身体を持ち上げ、二人からの斬撃を回避したのだ。

「フライしたか……!」
「ってあれ!?」

その巨体からは想像し難い速さで、二人の目の前から上方へと飛び、一時的に姿を消したのだ。

ジェイソンとクリスは、二人揃って攻撃を外してしまい、
ジェイソンは毒煙鳥の取った行動を言葉に出し、
そしてクリスは突然のその行為に疑問点を感じたかのような言葉を出す。



――だが、飛び去ろうとした訳では無く……――



「危ない!!」

上を咄嗟に確かめたクリスの目の前に迫るもの、それは……



ψ 浮力を失った灰色の巨体…… ψ

それが今、下にいる二人目掛けて落下して来ているのだ。
クリスが声を荒げないはずが無かった。



「トリックかぁ!!」

ジェイソンはそのクリスの合図を聞く前に上からの危機は察知していたが、
敢えてクリスの言葉に答え、自分自身は後方へとその身体を投げ出した。

――クリスも確実に上方からの攻撃を回避しているに違いは無いが

――そのジェイソンの背後に響くものは……



―ズゥウン!!



背後に響くもの、それは巨体が地面を叩きつける音である。その重厚さは、
人間が巻き込まれれば簡単に潰されてしまうような、恐ろしい雰囲気だ。



σ 落下の衝撃で周囲に放たれる風圧ウィンド

これらは直撃しなかったジェイソンとクリスを襲うのだ。

「おっと!」

だが、決してそれは動きを束縛したり、体勢を崩したりする役割は持たない。
いや、二人はこの程度ではやられないのだ。

前転の要領で二人ともすぐに起き上がる。二人の纏っている武具、
雪獅子、そして赤殻蟹の二つは決して重量は大きいものでは無いが、戦場では武具の重量は
失敗の際の言い訳にはならない。



「こんにゃろ! さっさとくたばっちまえよぉ!!」

一瞬逃げてしまうのかと思わせてきた毒煙鳥に罵声を飛ばしながら、フローリックは
力強い斬破刀の一撃を何度か傷つけてやった横腹に再び浴びせてやろうと
握る両腕に力を入れる。

着地してからまるで動く様子を見せない毒煙鳥の横腹目掛けて振られるのは……



―▲△▲ 擦るような、横への斬撃サンダーブレイド!! ▲△▲―



直接叩き付けても大剣のようには進まない。
ならば、徐々に傷を広げる勢いでるように滑らせた方が効率は良い。
フローリックの流れる一撃が毒煙鳥の傷口を正確に狙い、そして、次の攻撃へと入る。

「行くぜぇ!!」



――細身の刀身を利用した、連続斬りである!!――



多少刀身の長さに腕が振り回されそうになるが、それでもフローリックの腕は未熟では無いのだから、
流れる力を上手く流しながら、連続で目的の箇所を斬り続ける。

――斬り付け……

――刺し込み……

――そして斬り上げる……

こんな流れるような、それでもしっかりと威力を毒煙鳥にと浸透させている斬撃だが、
毒煙鳥は未だその場からまるで動く様子を見せ付けない。



ε 何が起こったのだろうか? 毒煙鳥の身に ε



「今度はこいつお見舞いしてやっからな!」

通常弾で攻撃し尽くしたスキッドは、今度は貫通弾を装填し、照準を毒煙鳥の頭部へ向けるべく、
グレネードボウガンを上へと向ける。

「ってあれ?」

スキッドは顔を上げると同時にやや間抜けな声を発してしまう。
その原因を作ったのは、



――毒煙鳥の奇妙な行動……――



何故かやや小刻みに頭部を前方に振り、そしてカチカチと妙な音まで発しているのだ。
その音を何度か鳴らした後に、またとある行動を取ったのだ。



ι 両足を広げ、そして、翼も大きく広げ…… ι





ββ 周囲が真っ白に包まれるウィールラディエーション!! ββ














*** ***














――◆■ 走る先に見える栄光とは/BLIND GLORY ■◆――

太陽が沈んだこの場所、アーカサスの街の中を必死で駆け抜けている人間が一人、存在する。

ハンター装備を纏い、背中には青鳥竜製の剣ドスバイトダガーを背負っており、
そしてオレンジ色のセミロングの髪をなびかせながら走り続けているのだ。
この人々が叫びまわりながら逃げている空間の中を。





「フューリシアさん……、大丈夫かなぁ……」

逃げ回る人々とすれ違いながら、初期装備の少女は自分を逃がす為に命を賭けてくれたあの女性を
思い出し、一瞬だけ下に視線を送る。



――あの一角獣装備の女性である……――



出来れば無事に事を解決していると信じたいが、相手にしているのはあの男である。
単独で何人ものハンターを死に追いやるだけの実力を持っている。
フューリシアの無事を願いたいが、どうしても恐怖だけは抜ける事は無い。



人々だけでは無く、どこかの軍隊だろうか、軍用トラックも何台か隣を通り過ぎて行き、
よく耳を澄ませれば、遠方から銃声も聞こえてくる。
きっとこの街で戦っているのだろう。

曲がり角を進み、そして更に奥へと突っ走る。早く誰か頼れる者を見つけなくては、
フューリシアの身が危ない。

早く助けたいと言う一心で、もう一つの曲がり角へと差し掛かる。

「誰かいない……!」



――鉢合わせに出会ったのは……――



「あぁ!!」

突然、デイトナは澄んだ声をあげ、そして緑色の瞳を大きく開く。

目の前に映るのは……



――四本脚で丸い胴体を支える茶色い生物――



――夜と言う暗い空間で

――うっすらと周辺の炎に照らされ

――上部に設置された砲台状の頭部をこちらに向けながら

――空気を吸い込むような音を響かせている……



「な……何これ……!?」

見た事も無いような奇妙且つ恐ろしい生物と出くわし、デイトナの足が動かなくなる。



――だが、茶色い生物は少女を捉え、離さない――



そして、遂に、砲台状の頭部の前部が黄色く光り出し……



――そこで少女はこれから何をされるのかを理解する――



「いゃああああああ!!!!」



――叫ぶデイトナ――



しかし、茶色い歩行生物は情けをかける事は無い。
それ以前に、この生物が情けと言う感情を使いこなせているのかと言う疑問も残るのだが。

だが、発射されればデイトナは確実に……



――いざ、発射!!――







「デイトナ!!」



そこに響くのは、トーンの高い少女の声。
その正体は、暗い赤のジャケットを纏った、あの……

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