「ホントにそう思ってる? あたしが言ったからとりあえずあたしに賛成しとこ〜とか思ってなかった?」

 意外とミレイは相手を見破る力を持っていたようである。アビスのその返事はしっかりと奥まで考えたものとはとても思えず、ただすぐ隣でそれを聞いたから納得しておこうと考えていただろうと、ミレイは突いた。

「え? あ? いや、どうだろな、ははは……」

 図星を突かれたアビスは、誤魔化すつもりでわざとらしく笑うが、既にそれはわざとである事がばれてしまっている。

「はぁ……、あんたったら……、まいいわ、でもね、作戦ってのはさあ、立てる方はもう完全に全部成功するってのが前提でやってる訳じゃん?」

 一度気の抜けた溜息を吐いた後、ミレイはそのレベッカの考える作戦と言うものに対して抗議のように、喋り続ける。

「あ、まあ、そうだけどさあ」

 しっかりと内容を理解していなさそうな返事をしながら、アビスは気まずそうに笑みを浮かべながら頷く。

「でもさあ、そう言うのって失敗したらなんか皆一気に、なんつうのかなぁ……、ピンチになるってのかなぁ……、なんかそれだけでもう負けが確定した、みたい風に思い込んで尻込みになったりするらしいのよ」

 ミレイはなかなか言葉が浮かばず、目の前に移る椅子を凝視しながら出すべき言葉を搾り出す。そして再びアビスの方へと目を向ける。

「ああ、なんか作戦通りじゃないとその後どうすりゃあいいか分かんなくなって分かんなくなって逃げる、レベッカ達が逃げる、みたいな?」

 アビスも大体作戦の本質が分かってきたようである。『逃げる』動作をする相手を明確にしていなかったと咄嗟に気付き、レベッカ達を付け足した後に訊ねるような口調で終わらせる。

「いや、まあ逃げるってのはちょっと微妙だけど、作戦ってあんまりあてにし過ぎてもちょっと危ないかなぁって思うのよ。やっぱ作戦ってのはさあ、数学と違ってさあ、こうしたらああなる、みたいな方程式的な根拠が無い訳だからさあ……」
「ああ! ちょちょちょっとごめん!」
「ちょっ……何よ!?」
「ちょっと意味分かんないんだけど……何? その数学とか、ほーてい……なんとか、とか」

 ミレイとしては、数学のように、確実に決定した答え、狩猟で例えれば、ある特定の行動を取れば必ず周囲は既に予測された状態に移る等の決まりきった結果を想定する事が狩りの世界では通用しないのだと、言いたかったのだろうが、アビスにその学問的な例えを使った説明は少し無理があったようである。

 アビスはすぐ隣にいるミレイを乱暴に両手を使って揺すり、強引に話を止めさせる。ミレイはややその行為に対して苛立ったような口調と、表情を出すが、アビスは話の意味が分からない事を素直に伝えた。

「あ、ごめんなさい……。えっとね、んと、作戦ばっかに頼ってても、結局はどうしようも無いって事。それより、やっぱ、一人一人がどんな状況でも対応出来るようにするのがいいんじゃないかって、あたしは思う。まあ実はさあ、昔さあ、あいつとペアで狩猟行ったんだけど、そん時にちょっと互いのやり方で意見合わなくて喧嘩になって、それからもう全然って感じになっちゃって、だから昨日もあたしらの事見てなんか嫌味でも残してやろうかって思ったんじゃないのかな」

 一度やり場の無い状況で何故かと言った感じで謝った後、ミレイは既に言った事をどう言い直せばいいか、少しだけ考え、最終的には作戦だけが命では無いと言い、そうでは無く一人個人のスキルの方が大切であると言いながら、腕を持ち上げずに両手同士を握る。

 そして、レベッカとの過去の話を突然持ち合わせ、手っ取り早くではあるが、説明をする。

「そうだったんだぁ……、喧嘩して一気に仲悪くなったっつうやつかよ、でも、だよなぁ、対応するって言う、そっちの方がやっぱ一番だよなぁ、でも良かったぁ、俺レベッカのメンバーじゃなくて……。もしあいつと一緒だったら毎日ごちゃごちゃ言われてただろうしな……。なんかクリスとは比べちゃ駄目だなぁって思ったもん。あいつはクリスと違ってもう……最悪だよな……」



――アビスはぞっとした……。もしレベッカとペアだったら、どうなっていたか……――



 もしレベッカとだったら、確実にアビスは毎回のように色々と技術的な悪口を言われ続けていたであろう。仮にそれが正論だとしても、言い方によっては受け手は非常にストレスとなってしまうだろう。それは嫌みとしても受け取れる。

 だが、クリスの場合は、アビスの事を気遣って、とは言え、命をかけた狩猟の世界で生きる事に対して甘い考えを持つのはどうかと言う見解もあるが、アビスにとっては、レベッカよりも、クリスの方が何倍も説得力があると思っている。

「クリスの方がいいって? あ、そうだ、あんたさあ、昨日クリスから片手剣、って言うか狩猟の事ってんのかな、なんかその話されてたみたいじゃん。ちょっと昨日の夜クリスとその話してたのよ、アビスにあたしの実家に行くっての言った後に」

 突然クリスを持ち出してきたアビスであるが、それを聞いて思い出したのか、ミレイは昨日クリスから話されたであろう、アビスの狩猟の様式についての話をここで明かそうとする。

「あ、聞いた……の? あの話……」

 あの話は、アビスにとってはあまり喜ばしくない内容であり、聞かれるのは少し恥ずかしいものである。どうして聞かれたのだろうかと言う感情を残しながら、呟くように、ミレイにその言葉をぶつける。

「うん、聞いたの。なんかアビスってさあ、まだまだちょっと未熟なとこ、あんだなあって思ってさあ」

 なんだかアビスの技量を低く見ているのだろうか、と言うアビスへ不安を沸き立たせるような事を軽く笑って言いながら、ミレイは自分の緑色をした髪を指で弄る。

「あ、そうだよ……な、なんか、俺ってさあ、ちょっと…そう言うとこ、あるよな……」

 アビスはここに来て、やはりミレイもアビスの腕前には少しだけ違和感を持ってしまっているのだと、ややテンションを落としてしまい、俯いてしまう。折角仲間になったはいいが、足手纏いだと思われてしまっては非常に居心地が良くない。勿論それは、自分に対してでは無く、相手に対してだ。

「まあそんな落ち込まないで。話聞いてたら大体あんたのやり方ってのが分かったし、それに怪鳥、あの毒にやられた奴だけど、あいつと一緒に戦ってた時にもちょっと思ってたから、ここでちゃんとハッキリ言わせてもらうわよ」

 俯き始めたアビスの左二の腕付近を軽く叩いて励ました後、ミレイは決心したかのように、アビスの話を始めようと、その青い瞳に真剣な色を浮かべ始める。

「え……ああ……」



――聞きたくない内容であろう。アビスにとって、それは、事実ではあるが、聞きたくないものだろう……――



 アビスは、一体相手にどんな気持ちを伝えたいのだろうか。言葉と言うより、ただ適当に反応しておけばいいだろうと言うような、言葉にならない言葉を呻くように外の出す。

「いや、別にあんたに意地悪言うつもりは無いけどね、ハッキリ言うと、あんたの戦い方はちょっと、危ないわね。もうちょっと状況判断力って言うのかな、周り見る事もちゃんと気ぃ配ってほしいって言うかさあ」

 ミレイは、一度アビスに確認を取った後、アビスの狩猟中の欠点とも呼べる部分を、周囲を見ると言う意味なのだろうか、両手を持ち上げ、両手を手首を軸に回したり、下方向に落とすような動きを取りながら、隠さず、簡潔に言い切る。

「あ、それクリスに言われた事……」

 アビスはすぐに思い出す。あの時の鍛冶場でクリスからその話を、気まずそうにしてきてたのを。

「そうね、ちょっとあれはハッキリ言って危ないわよ。怪鳥の時はさあ、なんか無理して頭狙おうとしてた訳じゃん」
「あ、あの時か……。あ、うん、ちょっとカッコつけようとしてさあ……ははは……」

 ミレイはアビスと共に毒に塗れた怪鳥と戦った時の話を持ち出してくる。アビスは戦いの中盤で、弱点であるだろう、頭部目掛けて斬撃を仕掛けようとしたが、怪鳥の動きもろくに束縛していない状態を狙った為、突然迫った攻撃に危うく巻き込まれそうになった。

 アビスはその様子をやや開き直るようにわざと笑いながら誤魔化そうとするが、今のミレイは真剣である。

「カッコつけるとか、そう言う事は考えないで。言っとくけど、カッコつけるのと、出来もしない事を無理してするのは違うからね」

 アビスに比べれば、ミレイは年齢的にはほぼ同じではあるだろうが、実力的にはミレイの方が先輩である。これからどんどん突き進んでいくであろうアビスを思い、やや厳しい言い方で、遠慮等の気持ちを入れずにそれを受け入れさせる。

「それに、火竜の時もそうだけど、ずっと同じ場所にいるなら、ちゃんと相手、飛竜だけど、ちゃんと動きとか見てないと、いざって時に逃げれなくなるから、見るってのはどんな時も忘れちゃ駄目よ。やれる時はやって、出来ない時は距離置かないと、片手剣、そうね、近距離用の武器ね、すぐ攻撃受けてどうしよも無い状況に追い込まれるからね。だから、注意して」

 アビスは黙っていたが、ミレイにも大体その気持ちは理解出来ている。決して無視している訳では無く、聞いてはいるが、自分の本当の実力を聞かされ、絶望感に浸ってしまっているのだ。



――誰だって、同じ仲間から欠点をはっきりと告げられれば、まともに言い返せなくなるものだ――



「一応あたし達ハンターってのはさあ、油断したらすぐ命落とすような危ない事ばっかしてる連中だし、それにもしあんたに死なれたりしたらさあ、凄いやだから、だから、言ってんのよ。ちょっと落ち込ませたってのは悪いと思うけど」
「死なれたらやだって、やっぱ人が不足しちまうから、って事?」

 突然ミレイは『死』の話を持ち込むなり、暗くなりかけた表情を隠すつもりか、窓に顔を向けながら、喋り続ける。

 アビスは、それを妙に思い、それが純粋にアビスを想ってと言う事では無く、仲間の人数が減る事によって戦力が落ちるから『死』を否定したのかを聞くが、





――アビスの考えは、外れていた――





「違うわよ、不足とかそんなのどうでもいいのよ。あたしはあんたの事言ってんのよ。仲間全体の力が落ちるから死んだら駄目だとかじゃなくて、命は大事にしなさいってんのよ。今のあんたの考え方ちょっと変だったわよ」

 一体アビスは何を間違った事を言ったのだろうか、と言った感じで戸惑うアビスにも惑わされず、ミレイはその深みのある内容を、アビスを睨みつけながら説明する。

 少しだけミレイの怖さが伝わったような気がした。アビスには。

「そうだよ……な……。死んだら、悲しむ人もいるから……な……ごめんな」

 言葉で完全にミレイに敗北している事を認めながら、アビスは『死』の誤った捉え方について、少し俯きながら謝った。

「あ、いや、別にそこまで落ち込まないでも……。まあ兎に角、ちゃんと死なないように飛竜の動きは常にチェックするってのは忘れないで、これだけでも心がけておけば大丈夫だから」

 ミレイはまさかアビスが泣き出してしまうのでは無いかと、焦りながら、最後は先ほどまで走らせていた威圧的な口調を友達相手に相応しい、優しい口調に戻し、アビスの左肩に右手を置いた。

「ああ、ごめん、でも任しといてくれ。俺は絶対やられんから。いつか飛竜なんてなんでも一人で出来るようになってやっから、期待しててくれよな!」

 アビスは泣き出す様子を持っていなかったようである。ミレイのその言葉がしっかりと伝わったのか、アビスは元気を取り戻し、顔を上げながらやや自信過剰であるかのように、笑いながらミレイに応える。

「あ、うん、分かったわ……。期待……してるわね」

 その立ち直りの早さにミレイは僅かに面白さを感じ、戸惑いながらも、耳付近に群がった髪を軽く触りながら頷いた。

 避けられた髪から改めてはっきりと映された銀の十字架のピアスも、付けているミレイ本人と一緒に笑い出したかのように、どこからか差し込んでいる日の光によって軽く光る。

「任せてくれ。でもなんかクリスの時よりお前に言われた方がちゃんと理解出来た気ぃすんだよね。なんでだろ?」

 突然アビスはすぐ隣にいるミレイと、ドンドルマの街に残っているクリスを比べようとする。どうしてそんな事をミレイにわざわざ聞こうとしたのかは、アビスは深くは考えていなかった。

「クリスはさあ、ちょっと控えめなとこ、あるからさあ。なんか相手を落ち込ませたくないっつうか、なんかそんな風に、暗い雰囲気作るのが嫌いだから、どうしても抑えるある意味で悪い癖があるのよ」

 ミレイは窓から見える空を眺めながら、親友であるクリスの姿を思い浮かべながら、クリスの明るさの裏に隠れた性格を説明する。

「あ、そうか、あん時も結構俺の事気遣ってくれてたからな」

 アビスはミレイとは比べられないくらいの優しさを持ったクリスに余計な心配をかけさせてしまった事に軽い罪悪感を覚えながら、未だ空を眺めているミレイの後頭部を見ながら、言った。

「だからここであたしがちょっと、クリスの代わりに言わせてもらったのよ。ハッキリ言っとかないとこの先危ないから、それにまた酒場の連中にごちゃごちゃ言われんの、じゃん? それにレベッカの事もあるし、あんな事言われない為にも、実力はどんどんつけてかなきゃ駄目なのよ」





――ミレイは、クリスに比べるとやや性格にきつい部分はあるが……――



それでもミレイはアビスの為に考えてくれているのだ。
駄目な所ははっきりと伝える。しかし、嫌みを混ぜて苛々させるような事は言わない。

でも、言われた側アビスは何かしら感傷を覚えてしまうだろう。
しかし、駄目なものは駄目なのだから、そこには鬼の精神を混ぜ込む。
仲間を想うならば、それはしょうがない事なのだ。

だが、怒る時は純粋に怒ってくる。
アビスも経験しており、その怖さはまともに口が動かなくなるほどだ……。

クリスと比べれば、ミレイは遥かにきついし、怖い。
だが、その裏には思いやる気持ちも込められており、
アビスは何故だか、今までの話を全て思い出しても、嫌気を刺す事を覚えなかった。

アビスは、ミレイと出会えて本当に良かったのかもしれない。





「分かったよ、いつかはあの酒場の変な奴らの事見返せるように強くなっから。あ、それとさあ、ちょっと頼みあんだけど……いいかなぁ?」

 初めてのドンドルマの街のクエストを受ける際に罵声を浴びせてきたが、それでもミレイを前に見逃してくれた酒場のハンター達をわざと悪く言いながら、アビスは誓うが、その後、何かやってはいけない事をやってしまったような気まずい雰囲気でミレイの頼み込もうとする。

「頼み? 何よ」

 ミレイは特に特徴の無い口調でアビスの質問を聞こうと、アビスの方を向く。

「んと、ちょっと眠い……からさあ……寝て、いいか? 今日ちょっと、朝早かったじゃん……」

 まるでミレイだけを取り残すようで気まずそうな雰囲気を感じるアビスではあるが、眠気には敵わない。朝、確かに早く出発しており、アビスは実質、しっかりと睡眠時間を取っていなかったのだ。

「え〜? 眠いって、ちょっと……」

 ミレイはだるそうに声を伸ばした後、軽く呆れて溜息を吐きながら肩の力を抜いた。

「ああいや違うぞ! 別に膝枕してくれとかそんな事無いからな! 違うからな!」

 するとアビスは一時的に眠気と言う感情を麻痺させ、ミレイが予測した事を極めて悪い意味で間違えながら、両手をばたばたさせる。しかし、言い切れば、即座に麻痺は解かれる。

「はぁ? ってかあたしまだなんも言ってないんだけど」

 極めて妙な光景を見せられたミレイは、一瞬スキッドのような思考を巡らせたのかと思ったが、わざと何も感じていないフリをしてやった。アビスはまだ性に関する事に対してはまだ真面目である為の事である。

「ああ、良かった……ごめんな」

 ミレイが怒り出すのでは無いかと不安になっていたアビスであるが、どうやらそれは免れたようだ。安心しながら謝ると、ミレイの方から言葉がやってくる。

「ったく……。まあいいわよ、寝てもいいわよ。到着したら起こしてあげるから、ゆっくり寝なさい」

 ミレイは一度呆れた後、正面を向きながら、まるで母親が子供に言うような、優しげの篭った声、そしてその中に含まれる雰囲気をアビスに渡した。

「ああ〜わりっ……、んじゃ、おやすみ……」

 大欠伸おおあくびをかいた後、アビスは今度こそ睡魔に取り付かれ、瞼を閉じて茶色い目を外の世界から隠した。

 一体アビスはどれだけ話していたのだろうか。ミレイの常時つけているドスビスカスの香水の匂いに対して既に鼻は慣れてしまっている。一体どれだけの時間を使ったのだろうか。アビスから見ればあまり話をしていないようにも見えるが、実際の時の流れはもっと早かったようである。

 一瞬香水なんかつけているからスキッドとかに迫られるんじゃないかとか、地味に異性の興味を引こうとか思うも、今のアビスは、まずそれよりも、寝る事だ。睡魔はある意味精神世界で最強の存在である。それには逆らえない。今はその存在に素直に従うしか出来ないのである。

 ミレイに手間をかけさせて悪いとは思いながらも、寝ると言う行為を中断はしなかった、いや、出来なかった。

(後数時間かぁ……、あ〜、なんかになってくるわね……)

 ミレイの心の呟き通り、後何時間かすれば、彼女の実家のある台地へと到着するであろう。そこに待ち受ける厄介事を思い浮かべ、窓に向かって溜息を吐きながら、腰につけてあるポシェットの中から一冊の丁度ミレイの掌と同じくらいのサイズであろう本を取り出し、読み始める。



*** ***



 時折、椅子の背凭れによしかかった状態で寝ているアビスは体勢が崩れて危うく通路側に落ちそうになり、何度かミレイの咄嗟に伸ばした右腕に助けられる。しかし、アビスの精神は完全に夢の中。激しく動く体でも睡魔には敵わないのだろうか。

 それのせいでミレイは本を読みながらも、決してアビスからは目を離せない。そして、遂に今度はミレイに向かって横に倒れてきた為に、アビスの頭がミレイの細い右肩に直撃し、軽くも、鈍い痛みに一瞬だけ憤懣ふんまんを覚え、仕返しでもしてやろうかとミレイは思ったが、それでも一応ミレイは半ば無理にアビスを連れて来た身であるし、それに相手はただ寝ているだけで、悪気は無いであろう。

 何とか怒りを堪えながら、最終的にミレイに寄りかかる形を保たせた。普通の体勢にしておけば、通路側にまた倒れるかもしれないからだ。前に向かって俯くように寝れば良いのでは無いかと言う案も一瞬浮かんだが、アビスの両腕をアビスの膝の上に持っていくのが少し面倒だと感じ、寄りかかる形を結局実行した。

 結局ミレイはアビスの上半身の重みに耐えながら、本を読み、その暇な客車内での時間を過ごした。だが、一つだけ、注意しなければいけないものが残っていた。

 それは、





――アビスが目覚める前に、アビスを起こす前にミレイから離しておく事……――



起きた時に女の子と密着していれば、アビスはきっと赤面するに違いない……。
だから、起こす時も勝手に起きる時も慎重な精神が必要だ……。

そして、連れて来た相手がスキッドでは無かったのは、ある意味正解だっただろう……。

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