――■Ich, der gehe, Sie zu töten.■ 今、殺しに窺います…… □Je qui vais vous tuer.□――

もう一つの場所で繰り広げられる、駆動車の混乱祭メカニック・カオス

もしこの夜空の下に敷かれた高速道路ハイウェイでドライブをしながら背景の海を眺める事が出来たら
どれだけの快美を得られる事だろうか。

しかし、走っている空間は決して綽然しゃくぜんの風を浴びせてはくれない。
脱獄者プリズナーズに強要されるのは、獄卒とのぶつかり合いパーズー・ヒエラルキーなのだ。

――生命線ライフポイントの命綱である加速装置アクセル――

今、駆動車を走らせる唯一のこの存在・・・・を右足で必死に踏み込みながら、全身に汗を滲ませているとある少女と、
その隣に乗りながら笑う死神ソウルグリッパーに応戦しているもう一人の少女の姿が見える。

そう、それは緑色と、オレンジ色の髪を持った……







▼▼ 女神アルテミスに全てを注ぎ込め!! ▼▼












グォ゛ェァアアアァアアゥウウ゛ゥ!!

背中に大型の回転翼ローターを生やした白毛の飛行生物バイオフライヤーは人間のそれとほぼ同じである白い胴体に
矢の一本が強く突き刺さり、甲高く、きたならしい悲鳴のような鳴き声を飛ばしながらその浮力を失う。

高速で前進しながらの飛行だった為、激しく周辺の建物や、石造りの地面に激突、或いはバウンドを数回繰り返し、
そして周辺に真赤な血を散らばらせながらやがて静かになった。



――運命を決めた矢を放ったのは……――



「やった! 当たった!」

街中を疾走している一台のオレンジ色の小型トラック。

その座席の右側の窓から身を乗り出し、そして背後を向きながら狩猟用の弓としては
非常に質素な作りであるハンターボウを構えたオレンジ色のセミロングの髪の狩猟用装備の少女が
上手くその白い飛行生物を射止められた事に対して素直に喜んだ。



――運転している緑色の髪の少女がそれに反応する――



「ナイス! 他も頼むわよ!」

運転しているのはミレイである。顔に何枚かのガーゼを貼り、そして額から後頭部にかけて包帯を巻いているものの、
その青い瞳だけはまるで弱まった様子を見せず、真剣に前を睨みつけている。

操縦桿ハンドルを力強く握っているその手にはうっすらと汗が見えるが、
それは今までの緊迫した空間を切り抜けてきた証であり、決して汚いと言う訳では無い。



εε 背後は決して静かとは言えず……



ブォオオン!!

ブォォオン!!

排気エンジン音を周囲に重苦しく響かせながら後続の敵車両が容赦無く襲ってくる。

類型タイプはミレイの運転している物と同じだが、乗車している者達は牙を剥き出しにした獣に等しい。
脱獄した愚者を追い詰め、滅ぼす為に送られた地獄の使いゲートキーパーなのだ。

まるで情けを知らないかのようにしっかりとミレイの運転する小型トラックを狙い、延々と追い続ける。
そして、情けを受け取る事が出来ないのは何もミレイと、その隣に乗車するデイトナに限られた事では無かったのだ。



――先程の白い飛行生物バイオアタッカーが地面で虫の息となっていたが……――



避けられなかったのか、それとも初めから避ける気が無かったのか、敵の操縦するトラックは平然と
地面で苦しんでいる白い生物の上を通り、跳ね飛ばしながら余裕げに通り過ぎていく。
恐らくは仲間として認識しても差し支えの無い存在だったのだろうが、これが獄卒達のやり方なのだろうか。

無論、跳ね飛ばされた生物は更に血液を噴射させ、本当に動かなくなる……



「あいつらどこまで追って来んのよ……。どっか曲がれないかな……」

ミレイはバックミラーで背後から迫り続けるトラックに対してその執拗なしつこさに僅かに腹を立てる。
心で思ったからと言って相手が都合の良い行動を取ってくれる事はありえないと分かっていながらも、
反射的に感じてしまうのだ。

だが、ミレイのやや恐ろしさすら感じ取れる尖りの見せる青い瞳はとあるものを探している。



ββ 曲がり角コーナー、そのままの意味である ββ



ミレイが逃げ道を探している間に、デイトナは再び空からの気配を感じ取り、
思わずその緑色の瞳を大きく見開きながら叫ぶ。

「また来た! ミレイ注意して!」

デイトナは再び車内から身を乗り出し、後方の上空から迫ってくる白い生物に対してやじりを向ける。
狩猟用装備の肩口からうっすらと見える素肌はやや白く、そして細いもののその弦を引く右腕からは
力強さを感じ取る事が出来る。

「分かった! 頼むわよ!」

ミレイは身を乗り出した体勢のデイトナを軽く一瞥し、トーンの高いその声を張り上げながら
駆動車に迫る危機の排除を任せる。



φφ 背後からは獄卒の地獄車ガール・ストライカーズが迫っているが……

σσ 上空スカイだって、油断が出来ない状態である……



―バララララッ……

「ぐが……」

背中から回転翼ローターを生やし、回転音スライシングサウンド醜い鳴き声ウィザーボイスを小さく響かせながら空中を激しく飛び回っている。
それが二匹、まるで目を回しているかのように上下左右フリースペース、無差別に揺れながら、それでもミレイ達を追尾し続ける。



威嚇行為マーネシングなんかを取りながらも、口元だけは決して穏やかでは無く、二匹とも口元を怪しく光らせる。
建物に挟まれた夜道を明るく照らす為の有り難い行為ボランティアと考える変人バカはきっといない。



δ デイトナの緑色の瞳が必死に標的エネミー捉えようとロックオン?…… δ

照準器ロックオンサイトの如く伸ばした左手の先端に、飛び回る飛行生物バイオアタッカーを収めようと集中力を込めるが、
普段は近距離の武器を専門に扱うデイトナにとっては苦痛の時間なのかもしれない。
弓は多少使えるように見えるものの、確実にミレイには敵わないだろう。

それでも攻撃する義務をデイトナは背負っている。
運転役ドライバーであるミレイは弓を握る事は出来ない。命運の半分はデイトナの手に握られている。
だからこそ、慣れてる慣れてないの言い訳はここでは誰も聞いてくれない。
そして、そんな事を実行すればきっとミレイに怒られるはずだ。

ここはもう、狙うしか、無いのだ……



□■ 一発の矢が射られる!! / BLOW OF FATE!! ■□

―バシュン!!

重火器と比べれば発射音は寂しいものがあるが、威力はそれなりに高いものがある。
飛行する白い生物に狙いを定め、矢が勢いを保持しながら飛ばされる。



「がぐぅ……」

速度を持って迫る矢を確認した生物は先程と違う種類の鳴き声を小さく響かせると、
迫る対象に対する行動として適切なものを選択し、実行する。



――上昇するアップターン!!――



寂しく矢が真下を通り過ぎ、勢いを付けて上部へと飛び上がった生物はそれを小馬鹿にするかのように
汚らしい小さい鳴き声を洩らす。

「うそ……。最悪……!」

デイトナは弦から離れた右手を悔しさで小さく震わせながら、自分の命中率の低さを恨んだ。
それでもトラックは速度を緩める事は無く、常に頭部及び乗り出した上半身に風が強くぶつかり、
オレンジ色のセミロングの髪がなびき続けている。



μμ 敵対者は処決する! ρρ

狩猟弓の一撃を避けた後も激しく空中を飛び回り、そしてようやく攻撃らしい攻撃に入り始める。
口内に溜め続けていた力も充分な値へと達した事だろう、だからこそ、女どもを恐怖に陥れる時間へと変わったのだ。

それを見事に証明させる為に、口に溜めていたものを一気に放出する。



ψψ 放射バースト!! ηη

炎の塊が煙の線を引いてミレイの操縦するトラックへと落とされる。
だが、決してミレイも操縦ばかりに気を注いでいた訳では無い。

狩猟場バトルフィールドにはこのような排気エンジン音を撒き散らす駆動車を持ち込む事は厳禁であるものの、
普段の狩猟ハンティングで鍛えた周囲への注意力はまるで無駄になっておらず、操縦桿ハンドルを大きく切り始める。



―ブオォアァア!!

地面へと落下した炎はそのまま燃え上がり、激しく火炎を立ち上がらせる。
左へとずれたミレイのトラックには直撃せず、隣を熱く、明るく照らす。

「きゃっ!」

突然左へと駆動車が軌道を変えたのだから、右の位置にいるデイトナはその反動によって車外へと振り落とされそうになる。
何せ、デイトナは身を乗り出しているのだから、油断をすればすぐに外へと投げ出される危険があるだろう。
それとも、その悲鳴は地面へ着弾した炎の意味も持ち合わせているのだろうか。



「つっ!」

ミレイは自分の合図もかけないハンドル捌きによって振り落とされそうにバランスを崩したデイトナを横目で視界へ入れながら、
素早く右手を伸ばしてデイトナの武具の背中を掴み、引っ張る。

そして残された左手はしっかりと操縦桿ハンドルを握り、この時点でミレイは駆動車とデイトナを制御していると言える。



流石にデイトナも素直に投げ出されると言う事態は無かっただろうが、掴んでくれた事による精神的な支えは大きかっただろう。
案外、ミレイの腕力も馬鹿には出来ず、本当に投げ出されそうになっていたとしてもそのまま引っ張ってくれそうな勢いだ。



―ブォオァアァ!!

もう一発の炎が後方で音を立てて立ち上がる。
後続の敵車両は炎の影響をまるで受けずに走り続けている。やはり耐熱性にもある程度は整備が回っているのだろう。
だとすれば、ミレイ達の車両も意外と信用性があると言う事になるかもしれない。



――しかし、立ち上がる炎が怖く、デイトナは一度身を中へと引く――



「ミレイ、さっきはありがと! それと、ごめんね……ちゃんと仕留めれなくて……」

デイトナは一度座席に座り、後方を飛び回る二匹の白い飛行生物を気にしながら、礼と謝罪をミレイへと渡す。
どこからか調達したハンターボウを寂しそうに抱き抱えながら、しっかりと射落とせるかの心配に駆られてしまう。

「大丈夫! 気にしなくていいから! それよりちゃんと体勢整えて!」

ミレイは決してデイトナを心の底から責め倒すような暴言を吐く真似を見せなかったものの、
デイトナの目から見れば、まるでその視線だけで相手を震え上がらせてしまうような目つきは、
横から見ただけで心中で密かに怒っているような錯覚を覚えてしまうのがまた怖い。



◆◆◆  ◆◆◆

(こっちは必死で運転してんだからちゃんとやってくれる?)

(ヘマ垂れられてたらこっちまで危ないんだし)

(運転ぐらい出来たらあたしが代わりに射る撃つってんのに……)

◆◆◆  ◆◆◆



―◇ そんなミレイの心の叫びがデイトナへと突き刺さる…… ◇―

これが一種の被害妄想であれば嬉しいが、本当はどう心で呟いているのか恐ろしくなってくる。
揺れる車内で一瞬硬直していたデイトナだが、すぐにそれは強引に解かれてしまう。



―ブォオオァア!!

再び側近に落とされる炎の塊レッドシェイプが音を立てて地面を焦がし、自信を失いかけていたデイトナに緊張の稲妻ノン・ケアレスネスを走らせる。
頼れるミレイとは言え、いつまでも頼っている訳にはいかないと弱っていた緑色の瞳を強く見開き、
ハンターボウを左手に、再び車外へ身を乗り出した。



(今度こそ……!)

デイトナは左目だけを強く閉じ、そのやじりを飛び回る白い生物の内の一匹に向け、狙いを定める。
相手は逃げるしか能の無いミレイの車両を甘く見始めたのか、最初に比べると随分と穏やかな飛行となっている。

ππ これなら狙えるはずだ!! ππ

基本と言う基本の構えを手早く進め、射止めるべき存在に向かって反撃を始める。

さり気無く狙われている対象がミレイのトラックの真横へと動いたが、決して狙えなくなったと言う話はここでは持ち出されない。
いや、狙えないほど、デイトナも未熟者ドブスでは無いのだから。



―バシュッ!!



放たれる矢は風の抵抗を付き抜け、発射主の望みを受け入れるべく、目的地へと突き進む。
外れてしまえば……、デイトナも、ミレイもきっと落ち込むのだから……。



ゴゥエァアアェウォオオァアアガァアア!!!

放たれた矢は望みを聞き入れたのだ。
白い胴体を貫通された白の飛行物バイオアタッカーは激しい悲鳴を飛び散らせながら
空中移動スカイフライトの勢いに従ってバランスを崩壊させながら傍らの建物に身をぶつけ、そして地面に積み上げられた木箱の中へと
落下し、空中砲撃ハイトグリンの役目を儚く終わらせる。



―δ 二匹目を撃破! だがまだ一匹が残っている!! δ―

数を減らせばこのトラックに迫る危機も軽減される。
デイトナはすぐに次の矢を右手に持ち、最後の一匹インシステントクイールを射止めるべく、再び身を外へ乗り出すが、
視界バイザーにその姿を収める事は出来なかった。

「あ、あれ……?」

ひょっとしたら真上、いや、左側にいるのかもしれないと迷いを表現する呟きを洩らしながら
デイトナはトラックの後方へと流れていく街の風景の中で周囲を見渡そうと細めの首を軸に視線を動かすが……



『ぐがぁ……』

最後に残された一匹の白の飛行物バイオアタッカーが人間と同じような構造の右腕を突き出し、
既に割れた硝子ガラスの奥の座席へと狙いを定める。目的はただ一つだ。



――運転手ミレイを引き摺り出す事だ!!――

操縦桿ハンドルを握り、加速装置アクセルを踏み込んでいるミレイの身体を白い毛に覆われた両手で乱暴に掴み、
そのまま引き摺り出そうと回転翼ローターの回転速度を強める。

風を下へと押し付けながらその白い胴体を力強く持ち上げ、その力に便乗するかのようにミレイも一緒に持ち上げようと企む。



「嫌っ……! 何よこいつ!」

ミレイは突然自分の身体に向かって伸ばされたその白い毛の腕二本に対して恐怖と嫌気を覚えながら
座席から持ち上がり始める身体を持って行かれないよう、操縦桿ハンドルにしがみつきながら対抗する。

「ミレイ!」

デイトナは一度叫ぶとすぐにミレイの細い胴体部分を左右から包むように押さえ、
白い生物バイオアタッカーに車外へと引っ張り出されないように助けに入る。

ハンターアームのやや硬質な作りが病衣の上に赤いジャケットを羽織っただけのミレイの身体にややきつく絡みつくが、
ミレイにとっては離されてしまえば非常に不都合であるに違いない。



「ちょっ……! デ、デイトナ! 手ぇどけて! ハンドル握れないから!」

引っ張り出されそうになっている自分を押さえてくれるデイトナの両手には感謝を覚えたいものであるが、
何とか操縦桿ハンドルを掴んでいると言うのにデイトナの腕がその行為の邪魔になってしまっていたのだ。



――操縦桿ハンドルを握れなければ制御出来ないのだから……――



「あ、そそ、そそっかぁ! ごめん!」

バランスが崩れ、やや乱れた蛇行走行スネークウォークが始まる車内でデイトナは無意識の内にミレイの運転の邪魔をしていたと気付き、
慌てて謝りながら自分のハンターアームの両腕をミレイの腕から離れさせ、もっと下の部分を押さえる。

腹部を押さえてもらえれば運転の邪魔になる事は無いが……



γγ ミレイはとある部分に気付き……



「ってかデイトナ! 剣あるじゃん剣! それで追っ払って!」

流石はミレイだ、と言った所だろうか。

デイトナは元々片手剣使いで、背中にはしっかりとドスバイトダガーと言う片手剣が背負われている。
咄嗟の事態であり、座席から持ち上げられそうになっているミレイを押さえる事ばかりに気を取られ、
自身の元々所持している得物の存在を忘れていたのだろう。

薄気味悪い白い飛行生物に引っ張られながらも必死で操縦桿ハンドルを握り続けているミレイは
状況が状況だからか、デイトナをその青い瞳で睨みつけながら武器を取るよう伝える。

睨むと言っても、それは客観的な話であり、本人は威圧感を与えようとは考えていなかっただろう。



οσ ようやく背中からドスバイトダガーを抜き取り……



「早くミレイからはな……!!」

―― 一気に紅い刀身を突き出すも……



『がぁ』

やる気の感じられない小さな濁った鳴き声を飛ばしながら、白い生物は
自分に飛んでくる刃に反応を示し、相手に確認の余地を与えずに左腕をミレイから離し……



――左ストレート!!――



―ガン!

「う゛ぇ!」

顔を殴られ、デイトナはその力に従い後方へと押し出されてしまう。背後にあるものは車内へ入る為のドアであるが、
背中を軽く打ちつけ、ドスバイトダガーを座席の下部へと落としてしまう。



「デイトナ! ってあんた何すん……!」

再びミレイに絡みつく白い毛の左腕がミレイの操縦の邪魔をし始める。
殴られてしまったデイトナを心配する余裕も与えられず、再び身体を掴んでくる白い生物バイオアタッカーに向かって
本気で力を込められなかったものの、本人なりの罵声を飛ばしながら何とか操縦桿ハンドルを掴み続ける。

トラックの軌道が揺れる事によって内部も同じく揺られてしまう。
このままではいずれどこかの建物へ衝突してしまう可能性も考えられるが、ミレイは何とか追い払う方法を考える。

正面の硝子ガラスの先にほぼ延々と続く街道を凝視すれば、その答えが見つかるかもしれない。



ββ 建物から突き出した看板プレート…… ββ



――意外とこの生物の腕力は弱いらしい……

―― 一応は一人ででもこいつの力に逆らえているし……

――まあそれでも引っ張られていてはまともに運転なんて出来ないけど……

――あそこに到達するまでの間なら、耐えられる!!



υυ ミレイの右足が更に強く加速装置アクセルを踏み込む!! υυ

ハンドルを握りながら、自分の身体を下に押し付けるように両腕に力を入れ、白い生物の引っ張る力に対抗する。
加速装置アクセルを緩める事無く、目的地・・・へと到着するまでの間を力強く耐え続ける。



――そう……目的地・・・に辿り着くまでの間……――



『ぐが……』

やる気の見えない濁った鳴き声とは裏腹に、その白い両腕は手癖が非常に悪く、
ミレイの外見上は力強く見えない身体を容赦無く引っ張り続けている。

φ 外へと追い出す為! ただそれだけ! φ

力を抜けばミレイ程度の少女なら簡単に引っ張り出されてしまうものの、少女の全身の力が相当強いのか、
まだまだ最終目的に至らずにいる。
加速装置アクセルを踏む右足もしっかりと機能したままだ。



(あんたはもう終わりよ!)

ミレイは汗で滲む両手で操縦桿ハンドルを握り締めたまま、街道を突き進み続ける。
目的地への距離はそう遠くないのだから、必死で全身に力を込め、しっかりとそのトラックの軌道を保ち続けている。

――ミレイは心で呟き、横目で見ながら軽く笑みを浮かべる……――



◆◇◇ 徐々に正面から近づいてくる目的地・・・……

◆◆◇ そこで笑顔の意味が明かされる……

◆◆◆ いざ、決行の時パフォーマンス!!



ρρ 纏わり付く白い飛行物体に向かってミレイは極言する……

「あたしさあ、しつこい奴大っ嫌いだから」

それだけ言うと、ミレイは操縦桿ハンドルをやや緩やかに左へと切り、
意味を理解しているのかどうかも分からない相手を青い瞳で睨みつける。



「だから……」

目の前にどんどん迫ってくる目的地・・・を眼中に入れながら、既に自分が勝利した事を確信したかのように
再びその多少汗の流れた顔に笑いを作る。



―α やがて、白の生物ホワイトフライヤーは気付き出す…… α―

トラックの外から両腕を突っ込み、確実に受け入れられない軟派ナンパをし続けていたこいつは、
ようやく前方から迫り来る鉄槌者パニッシャーに気付き出す。

『が……』

嫌らしくミレイの身体を掴み続けながらも、その黄色く光る眼をトラックの進行方向へと向ける。
そこでようやく奴は気付くのだ。



■■ 罠に嵌められていた事を!!/BOOBY TRAP!! ■■



『ぐがが……?』

頭の悪そうな外見を持ちながらも、追い詰められてからようやく気付きだしたのだ。
その鉄槌者パニッシャーの意味と言う意味を。

即ちそれは……



――χ 鉄槌者パニッシャー = 鉄製看板アイアンプレート χ――

ミレイは車内でそれが近づくのを確認しながら再び一言洩らす。

「今度は……」

もうこの時になっては生物の引っ張り続ける力が気になる事は無かった。
もう既に、勝利を掴んでいるようなものなのだから……。







λλ 鉄製看板アイアンプレートの一撃が今!! λλ

「自分の性格わきまえな!!」

ミレイは声を張り上げながらそのまま真っ直ぐと突き進む。
すぐ左には飛び出した看板があり、それがまさに目的地・・・であったのだ!!





――迫る!!

――迫る!!!

――迫る!!!!

『がぁ!!』

白の飛行物体はようやく事に気付くが、もう濁った声で叫んでも遅かった。
もう遅過ぎるのだ……。



―バゴン!!

鉄らしく、硬い音を一度響かせながら、白い生物は全身に衝撃を走らせる。

ぐあぁあがぁ!!

衝撃による激痛には耐えられなかった事だろう、生物は甲高い悲鳴を飛ばしながら
トラックから引き剥がされてしまう。



――車内へ伸ばしていた両腕も外へと引っ張り出され……

――そして何だか硬質な何かが折れた音も小さく聞こえ……

――後方へと流れていくようにその生物は地面へと落下する!!



「はぁ……はぁ……、ちゃんと周り見ないとね……はぁ……はぁ……」

ミレイはようやく引き離す事に成功し、左手で乱れた赤いジャケットを整えながら
熱気の感じられる溜息をやや苦しそうに吐きながら背後で地面へくたばっているであろうあの白い生物に向かって
手遅れながらも前方不注意に対しての注意を言い渡す。



「そんじゃデイトナ、左曲がるから注……って大丈夫!?」

適当な場所で曲がれる場所を見つけた為、ミレイは隣に座っているデイトナに一言合図を出しながら
顔も同じく右へと向けるが、その時ミレイは初めてデイトナの状態に気付く。

――とは言え、そこまで深刻では無いのだが――



「ワ、ワタシは……んと、大丈夫だけど……、でも、痛っ……」

どうやら先程殴られた時に顔に痣を作ってしまったらしい。
デイトナは右手で蟀谷こめかみ部分を押さえながら緑色の目を震わせている。

「大丈夫ね? あいつ意外と力弱いみたいだし、とりあえず我慢して! 一回曲がるわよ?」

ミレイから見てもそこまで血が流れていたり、意識的にも危険な状態では無かった為、
半ば強引に我慢させながら、握っている操縦桿ハンドルを左へと大きく切る。



ι それでも後方からはまだ敵車両が迫っているのだから、ゆったりはしていられない…… ι



―キィイイッ!!

後輪がやや甲高い印象を与える音を響かせて地面を少し強めに滑り、強引な左折を成功させる。
一体どこへ向かおうとしているのか、それはまだ分からないものの、有利な場所へ赴きたいと言う意識は変わらないはずだ。



γγ 減速していたトラックに再び速度を注ぎ込む!!

背後からしつこく迫ってくる敵車両から何とか逃げ続ける為に、ミレイの疲れ始めているであろう右足が
しっかりと加速装置アクセルを踏み込み続けている。
病衣と言う弱々しい外観とは裏腹に、その足の力強さが伝わってくる。



「あの人達まだ追って来る……。ミレイ大丈夫だよね?」

デイトナはふと後ろを振り向き、決して笑顔を表現しながら直視する事の出来ない存在に恐怖しながら
車内で最も頼れる存在であり、そして唯一の同乗者である緑色の髪の少女に恐る恐る聞き質す。



δδ 背後に蔓延はびこ地獄の追跡者インフェルノドライバーズ…… σσ

追いつかれ、体当たりでもされれば車内のバランスを崩しかねない。
更に囲まれれば、何をされるかも分からない。いや、想像なんかしたくも無い……。

だから、ここで頼れるのは操縦桿ハンドルを握り続けているミレイだけなのだ。

そんな頼られてばかりいるミレイもその質問を無視する事はしない。



「大丈夫だから! あたしの腕前馬鹿にしな――」



――その時だ――



ズゴォオン!!

建物を叩きつける重苦しい轟音!

「な!! 何よ!?」

ミレイはその空気を激しく振るわせる音のせいで一瞬右足を加速装置アクセルから離しそうになってしまうが、
そのまま飛び去ってしまいそうになった闘志を何とか気合で繋ぎ止め、冷静な状況判断へと移る。



■◆■ 建物が一体どうなってしまったのか? ■◆■

どうやら何か砲撃を受け、損壊したらしい。
それがミレイの操縦する車両の至近距離で発生した、ただそれだけだ。

だが、付近で壁が崩れてきたりすれば一大事であるし、直接的な恐怖も非常に大きい。

と言うより、もっと特筆すべき点が……



――確実にミレイの視線では捉えられないものの……――



κ それは建物の屋上に陣とっていた…… κ

α‐Characteristic  四本脚カルテット……

β‐Characteristic  砲台状の頭部ブラスターヘッド……

γ‐Characteristic  単純に、それなりに巨体ジャスト・ジャイアント……







「ね……ねぇミレイ、今、の何?」

デイトナは先程の砲撃によってまともにじっとしていられなくなったのか、車内できょろきょろと左右を見渡しながら
ミレイにすがり付くように訊ねる。

「分かんないわよ。多分さっきデイトナの事狙ったあのデカい奴だと思うけど、ちょっと様子見て! あ、勿論無理はしなくていいから。怖くなったらすぐ引っ込めて!」

素早く意見を切り上げるかのようにミレイは前方を見たまま、手の空いているデイトナに周辺の確認を頼み込む。
そして、友人に対する気遣いなのか、自身に危機が迫ったと感じた時は確認の有無を問わず、身を戻せとも一言添えておく。



▼οψ▼ そしてデイトナは再び車外へと上半身を乗り出した ▼ψο▼

前方から迫る風によってやや汗で濡れ始めたオレンジ色の髪が靡く。
そんな風圧を耐え抜きながら砲撃の真犯人を探そうと努力する。

周辺は夜の空気に照らされた建物が目立つものの、今は注目すべき点はそこでは無い。
背後からは敵車両が迫り続けているものの、それも注目対象とは別物である。

あの砲撃の犯人を見つけようと、額当てのようなハンターヘルムをめた顔を様々な方向へと向け、
ミレイに報告する為に必死になるが、見つからない。

顔に当たる風が流れる汗を吹き消してくれるようでとても気持ちが良いものの、
緊張感まではぬぐってもらえず、見つからない事による恐怖感が徐々に高まっていく。



「どこなの? あの変な――!!」

早く見つけなければ、と言う一心で一度夜空を見上げるデイトナの緑色の瞳が凍り付く。



――発見されたのだ……――



それは空を飛んでいた。それ以外に意味は成さない。単純にその意味を考えて欲しい。
夜空である為に、それを明確に照らしてくれる親切な要素ブライトフレアは少ないが、形くらいならば真下からでも何とか捉える事が出来る。

そして、そのデイトナの瞳と身体を精神的に凍りつかせてしまったその存在・・・・は何で宙を舞っているのか……



◇χ◇ 勿論ハネ・・を使っている訳だが…… ◇χ◇

決して羽毛で覆われていたり、力強い翼膜で構成されていたりはしない。
寧ろ、外部からの衝撃で簡単に砕け散ってしまいそうな印象すらも感じ取れる。
その脆弱ぜいじゃくなイメージとは裏腹に、現実はしっかりとその保持者を空中へと持ち上げているのだ。

世の中は本当に摩訶不思議である……。



――そうである、このハネ・・とは……――



羽でも無く……

羽根でも無く……



はねなのだ……





―バィバィバィバチバィバィバィバチバチバィバィ……

トラックの排気エンジン音に混じるように響く、弾けるような、叩きつけるような連続音サウンド
周辺の建物にぶつかっている事を連想させるその外骨格が薄く伸びて構成されたはねから放たれる効果音ミュージック
一言で感想を作るとしたら、



○● 騒音ノイズ ○●

これ以外に考えられん……





■■◇◇ やがてデイトナは喫驚きっきょうの事態を飲み込み……/ARMED UPRISING OF BUG!! ◇◇■■



――デイトナの緑色の瞳が恐怖と薄気味悪さによって揺れ始め……――



「な……何、あれ……? ちょ、ちょっとミレ――」

デイトナはすぐにミレイに上空に迫る、巨大で、そして翅脈しみゃくの通ったはねでその巨体を持ち上げている
モンスター ――なのかどうかも分からない奇妙な生物――の存在を知らせようと、
すぐに上半身を車内へと引っ込めようとする。

だが……



ブォオオォン!!

排気エンジン音の強い響きと同時に真後ろから急接近する敵車両。



ηη そのままミレイの車両へと追突するストライク!!



ガツン!!

「なっ!!」

鉄と鉄がぶつかり合う音が車内にも鮮明に響き、そして予想すらしていなかったその衝突によって
ミレイは操縦のコントロールを失いかけて操縦桿ハンドルを激しく左右へと微調整しながら詰まった悲鳴をあげる。



ε その一方で、デイトナは…… ε

「きゃっ!!」

まだ車内へ上体を戻していない状態であり、同時にそれは非常に不安定な状態でもあった為、
その敵車両の突然の追突は悲鳴をあげさせるに相応しい行為アタックだったはずだ。

悲鳴の後に描写される光景とは……



νν デイトナの身体が後ろへと傾き……

その背後にあるものは、支えでも無く……、ドアガラスでも無く……、常に後方へと流れる建物と、地面だ!

意味を理解した時、デイトナの小さい口から第二の悲鳴が舞い上がる。



「え? いあ、いや! うわぁあああああ!!!!

背後に嫌らしく走る無重力感、そして流れるように後ろへと無制限に倒れていく自分自身の身体に
デイトナは感覚的に遠ざかっていくミレイの運転するトラックへ必死の思いで両手を強く伸ばす。

だが、離れていく……。このままでは地面へと落とされてしまう……。



デイトナ!!

悲鳴に気付いたミレイは一時的にハンドルから神経と言う神経を手放し、
その病衣と赤いジャケットの袖に包まれた右腕を相手を殴りつける時の速度スピードと同等の速さで伸ばし、
トラックの外へと倒れていくデイトナを救おうとその表情を強張らせる。



――果たして間に合うのだろうか……?――



外見上はただの細めな右腕でも、この空気シーンを読み取ったならば、
生死の分かれ目デッド・オア・アライブを決断する命綱と謳えるのだから。







§ Mögen Sie Insekt?
§ 剛蟲と遊ぶなんてどうかな?

§ Wenn Sie das Monster eng anschauen.
§ だけど、直視なんかしたら大変だよ?

§ Sie werden Krankheit empfinden.
§ きっと吐き気覚えるかもよ?



人間と、蟲との戦いは煩く、しつこく、そして白々しい夜の背景を産み出してくれたりしてね!



――// INSECT DANSING!! //――

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