当たり前の事が、当たり前じゃなくなっていく……

いつもいるのが当たり前だと思っていた矢先に……

それは、あまりにも突然過ぎたと思うぞ……

仲の良くなった相手は、ずっと自分の傍にいて欲しいと考えてしまうかもしれない。
1人でいるより、信頼出来る相手と一緒にいる方が、絶対に心強い。
タメ口で語り合えるレベルに達していなくても構わない。

ただ一緒にいれるだけで何かが違うのだ。
いくら相手が敵の組織に属していた少女だとしても、仲間は信じてくれていた。
差別もせず、分け隔ても無く、仲間達は接してくれていた。
少年達は、年齢の近い少女を友達のように見ており、そして多少は性に関する興味さえも抱いていただろう。

それは彼ら、彼女らの本心だったのだろうか。
彼らの仲間には、女の子もいたのだが、女同士として認めてくれていたのだろうか。
人間は、思っていなくても、外面だけは綺麗につくろう事だってある。
だが、内面を第三者が知る事は出来ない。

密かに少女はそれを考えていたのだろうか。
自分のせいで、他の者達に迷惑がかかる事を予想してしまったのだろうか。
それが耐えられなかったのだろうか。
全ての責任を、自分で全て背負ってしまおうと決心したのだろうか。

きっと、残された者は事実を知らないかもしれない。
仲間を守る為に、皆の場所から離れたのかもしれない。
そして、自分が安心して腰を下ろせる場所を手放してしまったのかもしれない。

事情を知らない、残された者達はこれをどう捉えるのだろう?
悲しみを覚える者も出てくるかもしれない。
もうすぐ彼らが目覚める時だ。
そこで、全てが分かるだろう。

 

 

 

 

 

      ▲▲ スイシーダタウンの宿屋の中で ▲▲

          離れる必要なんて無かったのに……

 

 

 一度は青鳥竜の群れに襲われたものの、9人の活躍により、再びいつもの平和な空気を取り戻したスイシーダタウンで経営されている1つの宿屋の中で、小さなストーリーが展開されていた。

 同日の夜中にネーデルが宿から飛び出した訳だが、太陽が昇ってからそれに一番最初に気付いたのは、ネーデルと同じ女の子だったのだ。

 

「さてと、アビスはまた寝坊でもすんのかなぁ……」

 緑色のショートカットの髪を持った少女が、口元を淡い青のタオルで拭きながら廊下を歩いていた。顔を洗ってきた帰りなのだろう。歯を磨いた後だから、朝食でも考えていたのかもしれない。

 暗い赤のジャケットがトレードマークの少女はミレイであるが、仲間の少年の今までの生活パターンを知っているからか、そんな事を口に出していた。まるで予測を楽しんでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。

 他の者達は、まだ寝室から出てきていない。どうやら一番最初に寝室から出てきたのはミレイだったようだ。

 

 眠気がまだ残っていたであろう青い瞳の映る顔に水をかけて洗った事によって、もうその眠気も洗い流されていた事だろう。その証拠に、青い瞳は眠気等による濁りも映っていない。

 その瞳が捉えたものは、通路に並ぶドアの中で、1つだけ中途半端に開いた1戸のドアだったのだ。

 

「あぁれ……? あれってネーデルのとこじゃ……。なんでいてんのよ」

 ミレイの近くにネーデルの寝室があったからか、場所を覚えていたのかもしれない。当然そのドアには使用者の名前とかが載っている訳ではなかったが、前日の睡眠をする際に挨拶を交わした時に場所を覚えていたのだろう。

 ミレイとしては、ただその少しだけ開いていたドアを閉めようと右手を伸ばしたのだが、そこにまた違う人物が現れたのである。

 

「おいミレイ、なんでお前ネーデルの部屋覗いてんだよ?」

 ミレイの背後から現れたのはスキッドであり、灰色の半袖シャツだけを纏った状態でミレイに喋りかけたのである。スキッドからは、背中しか見えないミレイの姿が、どうしてもネーデルの部屋を覗き見しているようにしか見えなかったのだろう。

「え? あ、あぁスキッド? いや違うわよ、別に覗くとかじゃなくてさあ、ドア開いてたから閉めようとしてただけよ」

 突然背後から話しかけられ、僅かながら驚いたミレイであったが、振り向けばそこには濃い茶髪を持った少年がいたのである。

 朝起きた時の挨拶も忘れ、スキッドから誤解をされていた為にそれを取り消そうと、手短に説明を施した。廊下には今は少年と少女、1人ずつしかいないのだ。

 

「ああ確かにそうだよなぁ、女同士で覗くとか変だしな。っつうかなんで開きっぱだったんだろうなぁ?」

 スキッドとしては、少女の寝室を覗こうと考えるのは男性であると考えてるのかもしれない。そして同姓で寝室を確認する事はあまり普通とは言えない事だとも考えているのかもしれない。

 壁に左手なんかを伸ばして寄りかかりながら、ミレイのその行為について嫌みったらしく責めるような目で見続けた。

「知らないわよそんなの。第一まだネーデルだって寝てんだろうから騒いだら悪いわよ」

 スキッドの相手をするといつも面倒な事に巻き込まれてしまうミレイは、嫌な相手の対応でもする時のような目つきでスキッドに言い返した。きっとここでのやり取りは、寝室で眠っているであろうネーデルにとっては煩い以外の何者でもないはずだ。

 ミレイは声をいつもより小さくしながら、ずっとその青い瞳を細めていた。

 

「寝てる……かぁ。あ、そうだ、折角だからよぉ、ちょっと部屋覗いてみるか? あいつどんな風に寝てんだろ?」

 今頃になって寝顔とかを想像し始めたのだろうか。スキッドはいきなりニタニタしながら、もう既にミレイによって閉められたドアを見ながら、ミレイを誘おうとする。

 丁度2人しかいないから、少しふざけてみようとでも考えたのである。しかし、相手はアビスのような同姓の人間ではなく、異性なのだ。

「あんた馬鹿? なんで人の寝顔眺めようとすんのよ? そんな事していい訳無いじゃん」

 一気にミレイの表情が変わり、まるで怒り出す予兆でも見せたかのような剣幕になる。まるでスキッドの品格に最低と言う名のいんでも押したかのように、異性に対する興味を持つ相手に向かって、今度は睨みつける。

 

「いやそうじゃねえよ。開いてたっつう事はだぞ? ひょっとしたら、ひょっとしたらだけど、あいつどっか外出てたりしてるかもしんねえって話もあんじゃん? それ確かめるだけだって」

 確実にスキッドは何とかこの空気を直そうと、突然寝室に入る目的を変え始めるが、既に本心を口から出してしまっていた以上は、もう手遅れだろう。多少心中でビクビクしながら、寝室に踏み込んでも良い理由を作ろうとするが、真面目な顔になった所で相手に伝わってくれるのだろうか。

「あんた絶対それ嘘じゃん? そうやって覗いてもいい理由作ろうとしてない? ってか今寝顔って言ってたんじゃなかったっけ?」

 ミレイは長い袖に包まれた腕を組みながら、廊下の壁に肩から寄りかかった。今は朝方という事情もあるのだろうが、怒る気にすらならなかったのかもしれない。だが、心の中ではスキッドの下心が消えてくれる事を望んでいる事だろう。

 

「いや別にそうじゃねえよ。けどホントにマジでネーデルそこにいなかったら問題だろ? まあ寝顔も……ちょい……」

 ひょっとしたらこれからの旅の途中で本当に嫌われてしまうのかもしれないと考えたスキッドだと思われるが、怒りかけているミレイに気まずさでも覚えている為に、わざと笑顔を作りながらまた真面目な話に持ち込もうとする。

 しかし、下心はやはりそこにあったらしい。

「結局そっち? 兎に角さあそうやって覗くのめた方絶対いいわよ? あんた最低な男だって思われるわよ?」

 スキッドの緑色の瞳は捉えていたのだろうか。何気無くミレイが一瞬舌打ちをしたような動きを、ミレイの口がしていたが、続いた言葉は決して優しいものではなかっただろう。まるで最後の忠告だとも言わんばかりに、その青い瞳は細くなっているのと同時に、上目遣いにもなっていた。

 

「分かったっつの……。別にオレ変な意味持ってた訳じゃねんだって……」

 胸騒ぎまで起こり、スキッドは今まで自分が言ってしまった言葉を振り返って反省をしながら、声そのものの力が弱まっていく中で言い返した。後半の言葉は、直接的な謝罪ではなかったものの、回りくどく謝っているようにも見える。

「じゃあ寝顔がどのこのって話は何よ? それよりあたしもう行くから、あんたもさっさと準備したら? 今日はもうここ出発すんだから」

 そろそろスキッドに関わっているのが面倒になってきたのか、ミレイはこの町、スイシーダタウンから出発する為の用意に取り掛かろうと、スキッドに対して廊下の床を指差しながら伝えた。

 しかし、今日のスキッドが放った失言を許した訳ではないのは確かだ。

 

「あぁあれは独り言だって。別に変な事しねぇから心配しねぇでくれって。じゃあオレも準備してくっから」

 ミレイから飛ばされ続けている鋭い視線から逃げる為に、スキッドはまたわざとらしく笑いながら自分の視線を窓の外へと向ける。今までもスキッドはこんな態度をしていても、いざと言う時は仲間を助けたり、緊迫した空気を和らげる助言を出したりもしていたのだから、心までは腐っている訳ではないはずだ。

 スキッドも手を一度上げながら寝室のドアから離れようとする。

「信用していいの? じゃああたし行くけど、覗くような真似絶対すんじゃないわよ? じゃ」

 相手を疑うミレイであるが、疑うのも無理は無いだろう。それでも自分の準備のあるミレイはこんな場所で時間を浪費し続ける訳にはいかないと考え、ミレイも歩き出す。ミレイの時は、スキッドのように手を振らず、口でその場を去る挨拶をしただけでそのまま歩き出してしまっていた。

 

「あぁ大丈夫だって。変な事なんかしねぇよ」

 歩き去るミレイの背中を見続けながら、スキッドは絶対に自分が愚かな行為に走る事はしないと、念押しをする。しかし、心の中では出来るだけ早めにミレイの頭の中から今回の話が忘れられてくれないか願っていたりするかもしれない。

 スキッドの隣には、今ネーデルの寝室に繋がるドアがある。

 

(っては言ったけど……やっぱ……)

 ミレイはもう同じ廊下に並ぶ別の寝室に入っていっていた。そこがきっとミレイの寝室なのだろう。

 誰もいないその廊下で、スキッドはやはり監視の無くなった環境で緩みを出してしまったようだ。僅かに寝室のドアを開くだけならば、罪は無いだろうと自分に言い聞かせていたのである。

 そして、ドアノブに手を伸ばしたその時だった。

 

「スキッド、お前そこで何やってんだ?」

 背後から喋り掛けられる番になったのは、スキッドだったのだ。猫人のエルシオはベージュの愛らしい毛並みを持ち、成人男性の腰程度の身長しかない可愛らしい姿をしているが、その言動には愛らしさはまるで無く、まるで背中を貫通されるかのような鋭い声がスキッドに届けられていた。

 身長面では、まるで自慢出来ないものの、それでもエルシオの2本足で立っている姿はどこか威圧感がある。

 

「あぁ? ってなんだ、エルシオかよ」

 愛嬌のある外見とは対照的な低い声が聞こえた為に、スキッドは反射的に背後を振り向くが、スキッドと同じ視線に相手の視線があるはずが無く、遅れて気付いたかのように、最終的にその視線を斜めの下へと向ける。

 猫のような顔に埋め込まれた赤い瞳を見れば、聞き質す事によって次の話をしてもらえる事が分かるはずだ。

「どうせお前の事だから、寝顔でも拝めようとか考えてたんだろうが、そいつはもうそこにいねぇぞ。夜の間に姿を消したからなぁ」

 笑みも怒りも見せない真顔で、エルシオはスキッドの緑色の瞳を凝視しながら、もう既にその寝室には少女がいない事を告げた。しかし、どうしてそれをエルシオが知っているのだろうか。ネーデルから直接聞いた訳ではないだろうに。

 

「えぇ? あいついねぇの? なんであいつ夜逃げなんかしたんだよ?」

 直接室内に入る前に存在の有無を確認する事が出来たとは言え、そこにスキッドから笑顔が出てくる事は無い。

 スキッドはドアに指を刺しながら、エルシオにネーデルがいなくなってしまった理由を問い質そうとする。ただ、その聞き方だと、まるでネーデルが悪い事でもしたかのような聞こえがするが、相手は管理局に所属する者である。そのような聞かれ方をしても、冷静に対処する事が出来るだろう。

「俺に聞くな。ついでにシヴァもいなくなったが、あいつは置手紙置いてったから、大体事情は把握出来てるからな」

 エルシオはその小柄な身体で仁王立ちになりながら、随分と高い位置に設置されている窓の外に広がる朝の空を眺める。しかし、外を見ても答えは出てこない。答えはシヴァの置手紙に書いてあるのだ。

 

「あぁいや、そんないきなしいっぺんに言われても困んだけど……。ってかいなくなったって……どういう事だよ?」

 まるで事務仕事のように、必要な部分だけを手短にエルシオは話したのだが、スキッドの頭の中では整理し切れなかったらしい。

 元々ネーデルの事で頭がいっぱいだったのだから、そこでシヴァだとか、置手紙だとか言われても、いまいち整理出来ないだろう。だが、1つだけ理解する事が出来た事としては、ネーデルがいないというただ1つの事実だろう。

「来い。今から説明してやる」

 ここからはスキッドだけに説明する話ではないからなのか、それともスキッドを代表にして説明する話ではないからなのか、小さい右の前足でスキッドを招きながら、廊下を歩き始める。

 だが、全員が目覚める為には、まだ数時間程の時間を要するだろう。

 

 

*** ***

 

 

 宿屋のホールでは、エルシオ達のメンバーが全員集まっていた。

 だが、楽しい空気ではないのは確実である。何故ならそこには、本来ならばいるはずである、1人の少女と、1人の亜人の姿が無かったからである。仲間達が団体で行動する以上は、メンバーが欠けていれば必ずそこで問題が生じるのだ。

 何故、2人がいなくなったのかを、たった1つの手がかりで導き出さなければいけなかった。たった1枚の置手紙、それは、シヴァが残していったただ1枚の紙である。

 

「この手紙の通りだ。シヴァの奴、ネーデルのせいでいなくなっちまった」

 ベージュの毛並みを持つ猫人であるエルシオは、小さい前足で起用に手紙を持ちながら、円形状のテーブルを囲んでいる他の者達に見せ付けている。しかし、もう既に内容は全員が把握しているからか、見せ付けられた所で、その者達が執拗に中身を覗き込もうとする事は無かった。

 しかし、内容を把握し切れていない者は居るかもしれないが。

 

 そのエルシオの言い方に真っ先に異議を唱えたのは、フローリックであった。

 

「いなくなったってお前……。そういう言い方変じゃねえか? ぜってぇシヴァん奴ネーデルん事庇って一緒んなって付いてったんだろ?」

 金の短髪を持った男が、テーブルに肘を立てながらエルシオの顔を凝視し続けている。手紙の内容がどのようなものだったのかは不明であるが、きっとフローリックにとっては、エルシオの捉え方が気に入らなかったのだろう。

 聞き方を誤れば、ネーデルがシヴァに何かをしたようにも聞こえてしまうかもしれない。

「きっとネーデルの奴、クライシスでも覚えたからエスケープしたんだろう。シヴァはまさにボディガードになる為にここをティアーした可能性もあるぜ?」

 男性であるが、女性のように長い深紅の髪を持った男こと、ジェイソンは、ネーデルの失踪の理由が今までのネーデルの事情と大きく関係していると悟った。仲間達に危機が迫ると意識し、それでいなくなってしまったネーデルを護る為にシヴァも一緒になって出て行ったと考えたのだ。

 

「怪しいとは思ってたが、たった2日でこれか……。元々敵と一緒にいた奴だった訳だしなぁ……」

 エルシオは手紙を無造作にテーブルに置いて、もうこの場所にいないネーデルを思い浮かべながら、溜息をいた。そこにあったのはどんな気持ちなのだろうか。もう少しネーデルと共に行動し、そこで情報を得たかったのか、それとも世話になっているはずの団体の中から無断で飛び出した事によって怒りを覚えているのか。

「残念だよなぁ〜。折角仲良くなれたってのにすぐいなくなっちまうなんてよぉ。次会えた時に死体とかになってなきゃいいけどなぁ」

 ピンクのワイシャツと、紫のズボンで男性にしてはやや派手な色で纏めた服装をしているテンブラーは、純粋に仲間として認め合えた事が嬉しかったらしいが、今はもう二度と会えない可能性まで出てきているのだ。

 テンブラーは縁起でもない事を口に出しながら、用意されていたグラスの中に入っていた水を一気に飲み干してしまう。

 

「テンブラーさん変な事言わないで下さいよ……。でもネーデルだって、多分凄い悩んでやった事だと思いますよ? それにシヴァさんの手紙だって、なんか凄い深刻な感じだったし……」

 ネーデルを心配しているのか、ミレイの表情にも暗いものばかりが映り込んでいる。テンブラーだって、本当にネーデルが死ねばいいとは思っていないのだろうが、その喋り方は、この場には相応しくなかったに違いない。

 何気無く見つめていたグラスの中に注がれていた水が揺れ、その水面を凝視し続けていた。

 

手紙の内容は、これだけだったのだ。

少しここを離れる。
必ずネーデルを連れ戻す。
皆は先に出発を始めてくれ。
古都ライムで落ち合おう。

 

 この短文の中には、シヴァの慎重且つ意味深長なものが存分に含まれていた事だろう。

 冗談を嫌う彼であるならば、この書かれていた文章に、嘘偽うそいつわりは存在しない。

 ネーデルを護る為に、彼は命をかけて自分の爪を閃かせるはずだ。

 利益や名誉の為ではなく……

 

「あれ見たら絶対明らか敵に狙われてたから逃げたって感じじゃん。でももしネーデルがあのままおれらと一緒だったりしたら、なんか……おれらも襲われてたりしたって事なのかなぁ?」

 スキッドは手紙の内容を思い出したのか、電灯の照らされた天井を眺めながら自分が考えている事を口に出した。ある意味では、敵を引き付ける為にネーデルが飛び出して行ってくれたのかと想像するが、それと同時に、巻き込まれていた時の凄惨な場面すらも思い浮かべてしまう。

 しかし、地球外の生命体が攻め込んでいた事は確実に知らなかった事だろう。

「そっちの方が危ねぇだろ。こっちいりゃあオレらだって揃ってっし、それにシヴァだっていたってのに、1人で飛び出す方が自殺行為じゃねえか」

 だが、事実上ネーデルが1人だけで飛び出した方が危険であるのは事実だろう。フローリックとしては、団体でいる方が危機を回避する時に安心する事が出来るだろうと考えているのだ。

 ネーデルの実力を追求している訳ではないだろうが、どちらにしても組織に狙われているというのなら、人数が少なくなる程危険度も倍増する事だろう。普段は賢い雰囲気さえも漂わせているネーデルなのだから、単独になれば尚更危険な状態になる事に気付かないはずは無かったかもしれない。

 

 

「だけどネーデルだって結構強くなかったっけ?」

 きっとアビスは先日の青鳥竜との戦いを思い出したのかもしれない。確かにネーデルはなかなか巧みな剣捌きを見せてくれてはいたが、まるで話の中に1つの決定打でも加えるかのように肘を立てて発言した所で、きっと周りは反応してくれないかもしれない。

「アビス、まさかお前あの程度で組織に対処出来るとか思ってねぇだろうなぁ? ネーデル1人でどうこう出来るようなのが相手だったらとっくに潰れてるぞ?」

 エルシオの意見は、紫の髪を持った少年のある意味では必死だったのかもしれない意見を簡単に打ち砕く強さを持っていた。

 組織の力は確実に生半可なものでは無いだろうし、そして絶対的な強さを持つ幹部が何人も控えているのである。その幹部達が束になれば、ネーデルなんて一溜まりも無いのは確実だろう。そして、単に戦う能力だけが優れていたとしても、組織を破る事は出来ないはずだ。

 

「だっけどなぁ、別にネーデルちゃんに変なとこなんて無かったよなぁ? 2日しか一緒じゃなかったけど、昨日だっていつも通りだったし」

 やはりネーデルがいなくなってしまった事が頭から離れないテンブラーは、椅子に深く背中をくっ付けながら、あのいなくなってしまった青い髪の少女を再度思い浮かべる。いつもと同じ振る舞いを見せていた少女の突然の出来事だったのだから、虚しい気持ちも出てきてしまうのである。

「あ、そうだ……」

 呑気な喋り方であったテンブラーだが、意外とその中にはまともな事も入っているのが彼の言葉である。その後に来たのは、アビスの何かまともな意見を連想させる言葉の切れ端だったのである。

 エルシオの赤い瞳が鋭く向けられた。

 

「アビス、お前なんか心当たりでもあんのか?」

 すぐに説明をしろとでも言っているかのような迫力を添えているのが、エルシオのこの言葉だったのである。

 きっとそれだけのプレッシャーを浴びせられたアビスも、ひょっとしたら心中ではその切れ端を口に出してしまった事を後悔していたのかもしれないが、もう後に引く事は出来ない。

「あ、いや、夜、っつうか夜中……だと思うんだけど、俺ちょっと1回トイレ行きたくなったから廊下歩いてたらネーデルにあってさぁ、んで、えっと……」

 話す内容をいかにも準備すらしていなかったかのように、アビスは口を絡ませながら必死で言いたい事を作り上げている。しかし、きっとそれで相手には言いたかった事が伝わっているだろう。それはそれで良い事である。

 

「そん時だな? ネーデルがいなくなったのは」

 エルシオは確信したのである。夜中に、アビスに出会った時にネーデルがそのまま姿を消してしまった事を。

「まぁ……多分。なんかネーデルもトイレ行くとか行って――」

 エルシオにとっては、ネーデルがいなくなったタイミングだけを知る事が出来ればそれで良かったのだろう。だが、アビスはわざわざそこでネーデルがその後に何をしようとしていたのかを説明し出そうとしたが、すぐにエルシオに拒否されてしまう。

 

「そんなもんどうでもいい。あいつもアビスぐらいだったらあざむけるとか思ったんだろうなぁ」

 性別がどのこのとか、尿意がどのこのとかには一切興味も無いのだから、それより先の話に関しては、その時点で打ち切りが決定してしまう。

 それよりも、エルシオが直感的に感じた事としては、ネーデルも意外と相手を見る目が出来上がっていた可能性があったという事だったのだ。勿論それは偶然アビスと出会っただけだったのだと思われるが、エルシオにとっては、騙す相手が都合の良い少年だったとしか考えられなかったのかもしれない。

「なんだよその言い方……」

 普段からなかなか頼りにくいアビスではあるが、アビス本人もそのように言われてしまったら、いくらか機嫌が悪くなってしまうものである。

 微妙に眉を震わせながら、アビスは呟くように不満を残した。ネーデルにまでも卑下されてしまっていたのだろうか。

 

「だけどそんな夜中に出て行かなくても……。皆が静かになってからひっそりいなくなっちゃうなんて……」

 両手を握り合わせながら、クリスはもっと良い友達になれたかもしれなかった少女を思い出しながら表情を暗くしていく。白いパーカーの中で、その腕も寂しそうに震えているかもしれない。

「そんだけ深刻だったって事じゃねえかよ。相談も出来ねぇで1人で行っちまうなんて……ちゃんと相談しろっつの……」

 クリスの悲しい気持ちにすぐに応えようとしたのか、スキッドは頬杖を立てた状態を崩さない姿で、隣に座っている少女に対してそう言った。無論、それはクリス以外の人間にも伝わっている為、そこを中心にまた話が継続されていく。

 

「けどよぉネーデルちゃんも結構俺らに気ぃ使ってただろう? なんか同い年タメのお前らにも敬語使ってたし、なんか一歩引いたみたいな言動いっつも取ってただろ? 多分耐えられんかったんだろうなぁ」

 テンブラーの脳裏に浮かぶのは、見るからに同い年であるアビス達にでさえ敬語を使い続けていたネーデルの言動だったのだ。フローリックやテンブラー達のように、見るからに年上な人間に対しての敬語なら納得が出来たのかもしれないが、普通は歳の近い者に対しては殆ど敬語を使わなくても良いだろう。

 あのあまりにもしっかりとしていた性格が、ここに来て正体や本性を明らかにしたかのようにも見えてしまう。

「かと言って1人で逃げ出したら、結局俺らに迷惑かかんだろ。結局シヴァもいなくなっちまう始末だし」

 エルシオだって、ネーデルの張り詰めた気持ちを理解していない訳では無かっただろう。しかし、もう少しネーデルも考えるべきだったのである。単独は、集団よりも狙われやすく、そしてやられやすいのだ。

 だが、逆を返せばその集団の中で誰かが命を落としてしまう危険さえあるのだから、その意味も考えれば、決してネーデルの行動が完全に間違っているとは言えなかったのかもしれないが。

 


「あの……これから……どうすんですか?」

 ネーデルが今ここにいないのは紛れも無い事実であるが、ミレイが今一番気になっているのは、今日はどのように行動を始めるのか、と言う事だったのである。

 青い瞳で、その重たい空気の中を探り回すかのように見回しながら、エルシオに訊ねる。

「そうだなぁ……。まあ簡単に言うなら、行くしかねえだろう。こんなとこで油売ってる訳にもいかねぇしなぁ」

 小さな前足を器用に曲げて頬杖を立て、面倒そうに溜息を吐きながらエルシオが応えたが、その猫の姿を考えると、やや下品な動作にも見えてしまう。

 だが、エルシオはこうやって予定を作るような仕事を今までいくつも行なってきたのだから、ある意味手馴れた事であるのかもしれない。

 

「出発か? じゃあここから近い町って言えば多分ダンダリアンタウンだな」

 早くこのスイシーダタウンから出発しようと意識していたのかもしれない。そんなテンブラーは、今自分が座っている椅子の後方に備え付けられていた窓を見ながら、次の目的地と思われるであろう町の名前を口に出した。

 テンブラーもこの周囲の地理に詳しいのだろうか。

「あの町かぁ……。だったら多分あいついっかもしんねぇなぁ」

 一瞬、フローリックはその意外な詳しさを持ったテンブラーを橙色の目で睨むように一瞬見た後、テンブラーの反対方向に目を向けながら、とある誰かの姿を思い浮かべる。

 その出会いが、良い方向に進むのか、悪い方向に進むのかは誰も問わない。

 

「あいつっては? お前なんか知り合いかなんかそこにいんのか?」

 無意識に興味を持ち始めたテンブラーは、紫のネクタイを軽く緩めながら、フローリックに話の続きをさせようとする。その裏では、ひょっとしたらつまらない事を期待しているのかもしれない。

「あぁ、システィーナって奴がいんだよ。オレの妹の友達だ。あいつも妹と同じで煩せぇんだけどなぁ……」

 素っ気無く応えるフローリックであったが、それは最初だけの話であり、自分の妹の話になった途端に、何故か疲れたような表情になり始めてしまう。まるで昔何かされたかのような表情であるが、彼は話してくれるのだろうか。

 

「じゃあそろそろ行くか? こんなとこに長居する理由なんてねぇしなぁ」

 きっと、もっと詳しく話を聞こうと考えていた者は多かっただろう。だが、エルシオが椅子から飛び降り、まるで他の者達を置いて行くかのように勝手に歩き出したのである。恐らく、エルシオの中ではいなくなってしまったシヴァの事が気がかりになっているのだろう。

「それと、ディアメルちゃんに挨拶でも残して、それから行くかぁ」

 テンブラーもエルシオの次に席を離れたが、テンブラーが意識していたのは、いなくなってしまった亜人ではなく、数日だけ一緒に行動していた1人の女の子だったのである。

 

 

*** ***

 

 

 朝が来てまだそこまで時間が経っていない町の門で、移動用の軍用トラックの前で、見送る人間が1人と、見送られる人間達の姿がそこにあったのだ。

 別れと言えば、暗くて悲しいイメージが付き纏うが、それは永遠の別れとは限らない。ただ会えなくなる間が出来るだけで、時が許してくれさえすれば、また再会という希望の光が照らされるのだ。時間の流れは気まぐれであるが、その気まぐれが許してくれた時に、また両者は顔を合わせる事が出来るのだ。

 しかし、その前に必ず通る道の1つとして、今の光景があるのだ。

 

「そんじゃ、俺らは行くから、ディアメルちゃんも元気でな!」

 もう出発の時間が来ているからか、紫色のスーツと、スーツと同じ色のパナマ帽を被っているテンブラーは、これから乗車する軍用トラックの後部に取り付けられている足場を下ろす作業をしながら、これから別れる少女に挨拶を交わした。

 赤いニット帽を被っている少女は、そのテンブラーの軽い性格をしっかりと受け止めていた。

「はい、短い間でしたが、お世話になりました!」

 その淡い赤の髪と一体化しているかのような赤い瞳は、テンブラーの作業している姿を見逃していない。

 作業しているテンブラーが横目でディアメルを見ながら声をかけてきていた為、ディアメルもそれに応えるように、軽く頭を下げながら挨拶をした。

 その挨拶をしている姿は、テンブラー以外の者達の方が鮮明に見る事が出来ているだろう。

 

「そう言やぁお前ってここでお別れだとか言ってたもんなぁ」

 茶色のジャケットを羽織っているスキッドは、ディアメルに向かって数歩近寄りながら、ディアメル周辺の風景を見渡した。きっと、この町で共に過ごしたこの風景が名残惜しかったのだろう。

 少女は、この町で皆と過ごせる時間を終了させる事となったのだ。

「ここで離れる方がぜってぇいいって。オレらと一緒だったら何起きっか分かんねぇし」

 水色の半袖シャツを着ているのは、フローリックであり、その厳つい橙色の目の先には、普通の生活ではまず見る事の無いような光景が目に浮かんでいる可能性が高い。

 今は組織と戦っているのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが、戦いが嫌いな者であれば、誰も彼等と同行しようとは思わないだろう。

 

「俺らはガキの遠足とは訳が違うからなぁ。怖ぇって思ってんなら付いてくんなよ?」

 きっといくつも過酷な戦場を切り抜けてきたであろうエルシオは、次向かう場所でも生温い状況で許してもらえる事は無いと考えている様子であった。彼であれば、戦場を怖がる人間を無理に同行させようとはしないだろう。

 だが、何故か言い切る際に、テンブラーの作業姿を見ていたアビスをふと見ていたが、何を意味していたのだろう。

「ってなんで今俺の方見たんだよ?」

 今テンブラーの足場を下ろす作業が終わった所であったが、アビスは直感的に見られたという事を判断したのか、不意に振り向いてすぐにエルシオからの視線に気付いてしまう。

 まさか、アビスに対して何かを警告していたのだろうか。

 

「とりあえずさあ、ディアメルの方も、元気でね!」

 アビスには気にも止めず、荷台の奥から丁度出てきたミレイは、荷台から飛び降りながらディアメルに最後を思わせる挨拶を渡した。きっと奥で荷物の整理をしていたのかもしれないが、やはり別れが近付いているのだから、ただ準備をしてそのままで終わらせる気にはならなかったようである。

 右手を上げながら、赤い髪の少女にそう声をかける。

「あ、はい、ありがとうございます」

 ミレイに限った話では無いが、今ここで別れを告げる者達はその殆どが始めて顔を合わせ、そして数える程の日数しか経っていない。それでも、いつかは共に同じ少女同士で狩猟にでも赴いてみたいと願いながら、ディアメルは緑色の髪を持った少女に向かって返答をした。

 

「ディアメル、アーカサスの方に戻ったら、店長さんに宜しくね」

 ミレイの後ろから出てきたのは、ディアメルと似た髪形を持った少女こと、クリスである。挨拶の為にクリスもまた、ミレイと同じように荷台から降りる。

 クリスは他の者達とは異なり、ディアメルとは付き合いも長い為、他の者達と比較して対応がやや異なっていた。ディアメルの勤めていたアルバイト先の関係者の事を思い出し、笑顔を混ぜてディアメルに向かって左手を上げる。ミレイとは利き腕の異なる少女は、挨拶の際に持ち上げる腕も異なるのだ。

「はい、クリスさんも、お元気で」

 店長へのメッセージを受け取ったと言わんばかりに、ディアメルも軽く頭を下げながら対応を取る。

 

「カムバックの道には気をつけろよ? ハブアナイストリップだぜ?」

 自分が使っている武器が気になっていたのか、ジェイソンは愛用の双剣、インセクトエッジの切っ先を眺めながら、帰り道に対する注意を投げかける。

「もし変質者とかに会ったら悲鳴でも飛ばせよ? 『こいつ痴漢です!』って言えばもう勝ちだかんなぁ」

 良い旅を迎えるようにと伝えている赤い長髪の男が持ち出していた武器を見てふと思い出したのか、テンブラーも愛用の拳銃を取り出して銃口を左の指で撫で回しながら、ディアメルを見てどうしようも無いアドバイスを渡した。

 社会的に強く護られているであろう女性にとって、その悲鳴はある意味では一撃必殺ではあるが、この場で聞くと、馬鹿らしく見えてくるのが謎である。

 

「え……あっ、はい……」

 テンブラーが物騒な武器を持っている事よりも、猥褻な人間の話をしてきた事の方に神経が行ってしまい、ディアメルは困った表情を浮かべながら小さく頷いた。

 何気無く自分の赤いニット帽に手を触れた。

「変質者って……お前アホか……。でも最近ここら辺も物騒だから、巻き込まれねぇように注意はしとけよ?」

 テンブラーの隣に現れたのはフローリックであり、スーツの肩を乱暴に押し飛ばしながら眉を潜めていた。

 それでも、少女1人での道中は危険が伴うものであると分かっているからか、半ばテンブラーの意見にも多少納得はしながら、自分の言葉で少女に注意を促した。どちらにしても、帰り道に悪漢に襲われればそれはそれで不幸な話なのだ。

 

「はい、気をつけます」

 真面目な男から真面目な話をされたのだから、ディアメルだって真面目に返事をしなければいけないと強く意識した事だろう。或いは、やや緩そうな表情のテンブラーよりも、普段から威圧的な顔付きをしているフローリックの方がディアメルに与える精神的な影響力が多いのかもしれない。

 それが、銀髪と金髪の違いなのだろうか。

「俺には冷てぇんだな……はぁ……」

 スーツの裏側に拳銃をしまい込みながら、テンブラーはその呆れられた対応に悲しさを覚えてしまう。しかし、それでも分かってくれればそれで良いと心中では思っている事である。これでも命懸けで助けてあげた少女なのだから、これから先、どこまでも生きていてほしい事だ。

 

「お前に一応伝えとくが、2日後に定期便の馬車がここに来るから、それに乗ってアーカサスに帰れ。それ逃したら3日は待つ羽目になるから、ぜってぇ乗り遅れるなよ?」

 恐らく、これが最後に伝える内容になる事だろう。エルシオは念押しをするかのように、ディアメルに向かって、帰る為の手段を説明し、そしてタイミングを逃した場合のリスクも一緒に説明した。

 いくら定期便とは言え、自分の都合の良い時間帯を選ぶ事は出来ないようである。

「はい、最後まで色々ありがとうございます」

 エルシオからの説明を受けている間に、他の者達が軍用トラックの荷台に上がっていた為、もう皆がこの町、スイシーダタウンから出発してしまう事を悟り、ディアメルはニット帽の下で優しく微笑んだ。

 

――その別れに、一瞬だけ脳裏に1つの感情が流れ込み……――

 

「あ、後……それと……」

 軍用トラックのエンジンもかかり始め、もしこのまま黙っていれば、このままトラックは発進し、少女は手を振ってそれで終わってしまうだろう。

 まだ言い残していた事があったのか、ディアメルは一番最後に荷台に乗ったテンブラーをそのはっきりとしない言葉で呼び止めた。白と黒のチェックの袖で覆われた右腕が伸ばされているが、それは直接テンブラーのスーツを掴まなくても、相手は声を聞いただけで止まってくれるのだ。

「何だよ? まだなんかあんのか?」

 荷台に連結されていた台を、荷台の中から畳み込みながら、テンブラーは再び来るであろうディアメルのメッセージを待ち続ける。確実に旅に関わる有力な情報を得られるとは思っていなかったが、それでも何故か、期待を膨らませ始めてしまう。

 少しでも一緒にいられる時間を作りたい欲求がそこに存在したのかもしれないが、もしそうだとしても、きっとそれは一瞬で終わってしまう。

 

――少女の挨拶は、皆の無事を強く祈るものだったのだ――

 

「必ず……帰ってきて下さいね! 私アーカサスの街でずっと待ってますから、絶対に帰ってきて下さいね!」

 一瞬だけ、皆の身に何か起きた時の事を思い浮かべてしまったのかもしれないディアメルだったが、頭で考えていた最初の考えは、皆が無事に帰還する事だったのだ。

 恐らく、自分自身が殺し屋バイオレットに殺されかけた時に助けてくれた男が、旅先で黄泉こうせんの客となられる事が嫌だったのだろう。まるでその言葉をお守りにさせるかのようであり、自分も復興しつつある街で待ち続けると伝える事によって、戦いが終わった後に、また確実に会える保障を作り上げているのである。

 どんどん離れていく軍用トラックの荷台を、いつまでも少女は見送り続けていた。本来の自分の役目を忘れそうになるくらい、凝視していた。


 

 

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