―ドスン……
「!」
今自分の周りにある場所のどこかから、大きな音がコーチネルの足に伝えられた。
気のせいではなかった。どう考えても、重量が多い者が地面に落ちたような、重たい音である。
走りながら左右の確認をしたコーチネルであるが、火の立たない場所に煙が立つ訳がないのだ。
(ヤバっ!! 何あれ!?)
桃色の毛に覆われた太った猿の姿を持った獣が前足、後ろ足全てを使いながら歩いていたのである。
幸い、まだ見られてはいなかったが、その横から見た姿を目視した瞬間、
コーチネルはその巨体による恐怖から、すぐに大木に一度身を隠したのである。
大木の太さには感謝すべきだろう。
背中を付けていても、しっかりと胴体は勿論、両腕までもわざわざ丸め込まなくても隠す事が出来るのだ。
しかし、その巨体を持つモンスターの表情は、かなり険しく、眉間に皺さえ寄りこんでいる。
『グオッ……』
異変か何かを察知したのだろうか。
細い事は細いが、威圧感や
まるで、探し物でも見つけたかのように、ゆっくりと眉間から皺が消えていく。
だが、その進行が止まる事は一切無い。1秒毎にその猿は、コーチネルに近寄っていくのだ。
隠れている少女をもう見ているかのように……。
【飛竜・解体信書/Face up to menace】
正式名称/Practical name : 桃毛猿
構成群/Bone type : 尖爪目
分類/Standing style : 堅歯亜目
生物分類/Organization graduation : 鈍牙上科・桃毛猿科
全長/Span of body : 984.9cm(about)
【牙獣・脅威呼ぶ威容/Fighting dignity】
Care point? 身体は猿のような姿をしており、背中及び前足、後ろ足は桃色の毛で覆われている。
腹部は茶色であり、太った姿の裏には、力強さを見る事が出来るだろう。
類人猿の姿を持ちながら、そこには知性の欠片は見えはしない。
Care point? 頭部の毛は、果汁の粘着性を使い、尖らせているかのように整えている。
恐らくは、子分を統治する為に親分としての風格を見せ付ける為だろう。
だが、食欲旺盛な猿の牙は、鋭く尖っていると同時に、黄ばんでおり、汚い。
Care point? そのやや肥満な体質は、筋肉を内部に溜め込んでいる証にも見える。
尖った爪は、狙った獲物を確実に仕留める為に、太く、鋭く、頑丈だ。
太い腕も、獲物と戦う為に鍛えられている。
Postscript / 人間と殆ど変わらない脂肪体質な尻は、体系と照らし合わせてとても下品に見える……
【INFORMATION-END】
(ヤバい……どうしよ、武器も
コーチネルは隠れたまま、
大木に隠れていなければ、反撃すら出来ずに
走っていても汗なんて流れなかったのに、隠れている最中に汗が流れ始めている。
遂に桃毛猿が少女の隠れる唯一の大木に辿り着き……
『ウグァウ……』
目的は、少女を護衛する大木ではなく、その根元だったようである。
コーチネルは気付いていなかったが、根元に大きな木の実が落ちており、桃毛猿の目的はそれだったのだ。
獣特有の臭気を漂わせている猿は、土ごと木の実を拾い上げ、分厚い唇の奥へと投げ入れる。
口の中で硬い殻が砕け、内部には木の実の味が広がった事を想像する事が出来る。
桃毛猿の表情はどこか温いものを感じるが、それを直接確認している人間は、どこにもいない。
―バリッ……
―バリッ……
(なんだ……。ただの食い意地か……)
大木に隠れ続けていたコーチネルは、接近してきた目的を知る事が出来たから、ようやく安心する事が出来たのだ。
しかし、そこに猿が居続ける限りは、その場を離れる事は出来ない。
顔は下を向いているが、大木から姿を出せば、即座に
ただ、背中を大木に付けている事しか出来ないのだ。
様子を覗き見する事すら出来ず、緊張の時間だけが過ぎていくばかりだ。
―ドスッ……
―ドスッ……
もうこの場にいるのが飽きたからか、場所を変えようとでも思ったのかもしれない。
しかし、コーチネルの根性には、覗き見る勇気が出てくる事が無かったのだ。
だが、距離感を感じられたこの音は、大木から離れ、同時に逃げるチャンスでもある。
それを逃してしまえば、次はいつ逃げられるか分からないし、早く町へ戻らなければいけない任務を持っている人間にとって、
ここの長居は完全な時間の無駄であり、そして町民の命も危険に晒す事になってしまう。
(離れたかしら……)
事を進める為、コーチネルは一度顔だけを大木の端から出してみた。
こちらに身体の横を見せながら、4本足で物々しく、ゆっくりと歩いている。
目的が達成されたから、後は当ても無く歩き回ろうと考えているのかもしれない。
しかし、歩いている方向はどう考えても、町の方向である。
考えている暇も余裕も無い。
丁度何メートルか先に、同じくらいの太さの大木があり、上手くやれば徐々に逃げられるかもしれない。
コーチネルは自分の瞬発力と忍び足を信じ、すぐに行動に走ったのである。
κκ 隣の大木へ、いざ!! / FINDING OR BE FIND κκ
僅かな距離を進む為に、桃毛猿の気があちらへと向かった隙を狙い、出来るだけ音を立てない意識で駆け抜ける。
しかし、現実には草を踏む音等が響いており、それでももう1つの大木へと移動する事は出来たのだ。
『ングゥ!!』
喉が掠れたような不細工な声を放ちながら、桃毛猿はコーチネルの場所へ、再び振り向いた。
眉間を
その前足は、今にも襲い掛かって来そうなくらいに力が入っていた。
(さっさとどっか行けっつのぉ……。時間無駄……)
早く町に戻りたいのに、桃毛猿がそれを許してくれない。
そして警戒心も更に強くなり、コーチネルの隠れている大木の周囲を重点的に見回し始める。
どこかに敵がいると思ったのか、黄ばんだ歯を食い縛り始め、何故か肥満体質の腹部を両前足で押さえ始める。
普段は4本足で歩く猿ではあるが、2本足だけで立ち上がる事も出来るようではある。
器用ではあるが、流石に2本だけでは歩く事は出来ないらしい。
ゆっくりと両方の前足を握り締め、何故か下半身に力を込めている。
その様子をコーチネルが理解しているはずが無かった。
ただ、その意味を理解するのに、僅かな時間を必要としており、そして、待っているだけで良かったのだ。
当然それが良い結果を
『グッ……グァウ……』
下腹部に力を込め、今まで浮かせていた両前足を再び地面へと落とす。
次に汚らしい尻を突き出し始めているのだ。
あまりにも下劣な格好ではあるが、そこにどんな意味があるのかは、桃毛猿にしか分からない。
(このままじゃあ絶対捕まるじゃん……)
直接桃毛獣を目で見ていないコーチネルにとっては、ここはただの絶望の空間である。
武器も持たないで大型のモンスターに凝視されれば、その後の未来は深い闇となるばかりだ。
何とか見つからずに逃げ切る方法を考えていた。
――その時、意識的な悪夢が襲い掛かり……――
―ブォオォオオオオ!!!
とても音として聞きたくないような、下品そのものの音が響き渡り、桃毛猿の周囲も茶色く染まり……
――≪≪
体内に潜む細菌の作用により、分解される時に発生する
それは時に驚異的な武器として周囲の者達を驚かせる事がある。
大腸へ送られる際に発酵し、発生したガスには非常に強い臭気が伴う。
それこそがこの攻撃の本性であり、誰も寄りたがらない
恐らく
茶色と黄色の混じった気体も周囲に流れ出ていく……
(なんか今変な音した――)
それは正真正銘、
しかし、それは単なる音としか、コーチネルは捉えられなかったのだ。
やがて、女の子が最も嫌がる悪臭をその場で浴びる事になるとも知らずに……
WARNING!!
WARNING!!!
WARNING!!!!
υ■■ 正常な嗅覚に
(!!!)
鼻を破壊する程の激しい臭気が少女を襲い、激しい神経異常と同時に、反射運動が発動し……
「げぇほっ!! げほっ!! ぐぇほっ!!」
止まってくれるかどうかすらも分からない咳が出始めてしまう。
我慢すら出来ない臭気によって、咳と同時に涙まで流れ始める。
どちらも制御する事が出来ず、両手で力強く鼻と口を押さえ込むが、だからと言って収まるものではない。
ψ◆◆ そんなに騒音出して大丈夫なのか? / USELESS RING ◇◇ψ
『グォウ……グアゥオウ!!』
猿のようなお世辞にも美形とは言えないその顔に、怒りが溜まり込んでいく。
咳の音を頼りに、桃毛猿は顔を向けているのだ。
その向けている場所は、確実にコーチネルの場所であり、ゆっくり隠れている余裕の無くなった少女の姿も、そこにあった。
大木の後ろにいるのは、身体を曲げながら咳き込み続けているコーチネルだったのである。
もう桃毛猿が目指すものは、確定してしまったと言っても過言ではない。
ο◇◇ 狙う相手は、もう確定した…… / MURDER TARGET ◇◇ο
身体には防御の意味も兼ねた脂肪が溜まっているからか、動き自体は鈍いと見ても間違いはない。
だが、動きを犠牲にしたその腕力を馬鹿にしてはいけない。
それよりも、少女がこの緊急事態に気付いているかが一番の問題である。
「げほっ!! げぇほっ!! 何……よこの臭い……!!」
コーチネルも分かってきているはずだ。
桃毛猿に自分の居場所が知られている可能性がある以上は、何としてでも離れなければいけない。
しかし、まだ身体が言う事を聞いてくれないのだ。
涙で激しく滲む視界を必死に使い、桃毛猿のいる場所を感覚だけを頼りに見ようとする。
――不細工な皺を作った猿の顔がそこにあり……
「ヤバッ!!!」
口と鼻を、白の穴空き手袋で包んだ右手で押さえ続けながら、何も考えずにその場から走り出す。
後ろを確認する事はしなかったが、大木に何かが刺さるような音が聞こえたのは確かだ。
結果的に桃毛猿には姿を確認されてしまったが、その場から逃げられたその部分は非常に大きいものがある。
これによって、非常事態を知る唯一の人間が町に報告を出す事が出来るのだ。
―― まずは武器を受け取ろう…… δ
それがまず最初にすべき事だと少女は意識していた。
それがまず最初にすべき事であり、優先順位は少女が決めるのだ。
それがまず最初にすべき事であり、戦えるように整えるのが最も先決である。
『グォオゥウ……』
猿の姿をした怪物は、小さな鳴き声を唸らせながらも、確実にコーチネルを追いかけている。
猛烈に……とまではいかないが、人間で言う駆け足のような速度で追いかけている。
周囲に撒き散らされた悪臭はまだ残っているが、桃毛猿自身は平気なのだろうか。
前足を使いながら身体を前へと進ませている姿は、真正面から見ると恐ろしいものがある。
――
コーチネルは櫓の下に辿り着くなり、すぐに上を見上げ、声を張り上げた。
「2人ともいる!? すぐワタシの武器落として!! それと他の兵士達に戦闘準備取らせて!! 桃毛猿がこっちに向かってるから急いで!!」
先程の2人の警備兵に対して説明をしていたのである。
相手の返答を待っている余裕は無かった。
だからこそ、自分が言いたい事を全部吐いてしまうのが先だろうと本能で感じたのである。
兵士は戸惑いながらも、すぐにコーチネルの愛剣を落としてくれた。
その≪イノセントブレード≫の白と青それぞれに光る輝きはまだ残ってくれている。
しかし、今は輝きに魅了されている場合ではない。
コーチネルはその双剣を素早く拾い上げるが、今度は町の方へと駆け抜けていく。
まだコーチネルのすべき仕事は残っているのだ。
――町民の中に不要な怪我人を出さない為に……――
町に戻るなり、その足を緩める事無く、十字路の道を左に曲がり、そのまま1つの建設物の中へと入っていく。
そこは放送センターであり、その建物の屋根には大型のスピーカーが備えられている。
普段はそこで町内放送を流したり、特定の人間に対する報告を流したりするのだろう。
だが、今コーチネルの考えている事は、温い話ではない。
素早く町の人達に緊急事態を伝える為には、町全体をいちいち回らずに、いっぺんに伝える手段を探すのが大切なのだ。
ドアを開き、放送室へと続く通路を走り抜ける。
時折何人かの従業員とすれ違ったが、全く気にする事は無かった。
何か声をかけられたりもしていたが、何を言われていたのか聞こえなかった。
恐らく勝手に入った事に対して何か言われた可能性があったが、内容は覚えていない。
―バタン!!
「うわっ! 誰だね!?」
放送室にいたのは、やや年齢的に老けた顔立ちをした男性だった。
今は機材の調整や整理をしていたのだろうが、ドアがいきなり開けられたのだから、驚かずにはいられなかった。
「勝手に入ってすいません! ちょっとこの機材借りますよ!!」
無論、室内に無断で入り込んだのはコーチネルである。
白い布地の上に淡い赤の甲殻を張り合わせた装備と、腕を守るアームから見えた肩口や、
白いスカートとベレー帽のような白い帽子が、戦士であると同時に神聖さも見せ付けている。
だが、相手が騎士だか少女だか分からないが、勝手に触らせる事は普通であれば出来ないだろう。
初老の男性は機材に手を触れようとする少女を止めようとする。
「ちょっと待ちなさい!! いきなり入ってきて――」
「話は後!! 兎に角これ使わせて!! 緊急事態なの!!」
男性は少女の肩を掴むが、あっさりと少女に払い除けられてしまう。
コーチネルは危険な事態を把握しているから、それしか説明する事が出来なかった。
時間の問題もあり、必要以上に細かく説明をしている余裕も無かったのである。
どうせ機材の一つであるマイクに向かって放送をすれば、自然とその男性も事を把握する事になるのである。
勝手に機材を使うコーチネルに対して初老の男性は怒りの表情も浮かべているが、全く相手にされていない。
――電源スイッチ、音量メーター、その他必要なボタンやスイッチを作動させ……――
「町民の皆さん!! 緊急放送です!! よく聴いて下さい!! 繰り返します!! 緊急放送です!! 必ず皆さん全員聴いて下さい!!」
コーチネルは再び仕事や任務の時の真剣な表情に変え、マイクに向かって熱心に声を放つ。
声色は爽やかな雰囲気が生まれ付きの関係上まだ残っているが、それでも今は真面目なのである。
――町の人間達が聴く体勢に入った事を信じ、そして……――
「今この町に凶暴なモンスターが近づいてます!! すぐに近くの建物、特に頑丈な建物を選んですぐに非難して下さい!! 繰り返します!! この町に凶暴なモンスターが近づいてます!! すぐに近くの頑丈な建物に非難して下さい!!」
町民が安全な場所に逃げられるようにと、何が来たから人々はどうすれば良いのかを説明した。
殆どの者達は戦う力を持っていないのだから、どこに逃げるべきなのかを伝えるのが先だったのだ。
町の外では今混乱の渦が巻いているだろうと想像してしまうが、事実を伝えなければ無駄な犠牲を出してしまう。
だからここでは包み隠さずに伝えるのが正解だったと少女は自分に言い聞かせ続けている。
「それと、ダリルシェイド騎士団の者達はすぐに東部のミリアーナ像の近くに来て!! 武器を持つのを絶対忘れないで!!」
きっと、その場所が先程少女が赴いた、監視塔として動いていた
町の象徴とも言える女神のような女性の白い像が建っていたが、それを目印にしろとでも言っているのである。
町民には敬語を使っているが、騎士団にはそのような伝え方をしておらず、副隊長としての肩書きを強く意識しているのだろう。
――もう1つ、忘れている事があった為、最後にそれを伝えるが……――
「あ、それと、クルーガーさん達と、そんでクルーガーさん、ちゃんと聞こえてますよねぇ!? 聞こえてるんでしたら絶対来て下さいよ!? 勿論武器持って、ミリアーナ像のとこに来て下さいよ!? 来ないと後でどうなるか分かってますよねぇ!?」
折角途中までは充分副隊長らしい責任感を感じ取れたと言うのに、
身内への放送になった途端に、話し方に砕けたものが見えるようになってきてしまった。
纏まりや事前の準備もまるで感じられないその話し方を町民が今聞いているが、何を思っているのだろうか。
今は少しでも戦力を集める事が大切である。
コーチネルもイノセントブレードと言う立派な武器を持っているが、単独で戦うよりは、
信頼できる者達がいる方がずっと心強いのだ。
――そしてコーチネルはすぐに放送センターを後にする……――
機材のスイッチ等もそのままにし、武器を持って外へと飛び出したのだ。
もう時間は無い。
惨劇が広がらなければ、それで充分である。
一体どこまであの桃毛猿は近づいているのだろうか。
それは、放送センターを出る間まで、ずっと頭の中で無意識に意識していた事だった。
――放送センターから外へと飛び出した少女は……――
「もう
両手にそれぞれ青と白に輝く剣を持ちながら、必死に走り続けている。
あの桃毛猿は
少女の横顔には、不安と、懸念と、一筋の汗が映っている。
副隊長であるというのに、もしあの桃毛猿に敗れてしまえば、自分の名誉が崩れるだけではない。
多くの人々が犠牲になり、更にはダンダリオンタウンも崩れてしまう。
他の誰かが解決してくれると、人任せにしてもいけないのだ。
ワタシがやらないで……誰が解決するのよ……
不安が徐々に募っていく。
だが、先程は武器が無かったから、桃毛猿を怖がっていただけである。
今は頼れる双剣が手元にあるから、勇気もそれに伴って倍増している。
更には増援も来てくれる可能性があるのだから、尚更倍増していると言える。
(とりあえず放送は伝わったみたいね……!)
町に戻ってから大して時間を使っていないはずだったが、
だが、町民の姿は外に無かったから、放送の効果は充分だったのだ。
後は、もう1つの効果を期待したかったのだが……
「コーチネル!! お前だけで行く訳じゃねぇだろうなぁ!?」
少女の横から聞き覚えのある低い声が飛んでくる。
だが、そこには威圧感や強さ、そして厳格ながらも信頼出来る雰囲気も存在した。
――男性の声によって、少女の顔に笑顔が映る――
「あっ! クルーガーさん! やっぱり聞こえてたんですね! 安心しました!」
隣にいたのは、水色の半袖シャツを着た男であり、両手で太刀を持っている姿も確認出来た。
左手で
それでも少女と全く同じ速度で走っており、その速度も少女からの強い信頼を得る証拠になっている。
笑顔を見せてやったコーチネルであるが、隣を走っている男は防御面で非常に心配されるだろうし、そして何故か
「ってかお前なんだよあの放送はよぉ? 他の奴らも笑ってたぞ?」
東部へと向かう足を緩めずに、クルーガーは後半で流したあのコーチネルの緩んだ口調による放送について、問い詰めた。
逆にその気持ちの変化が、コーチネルのある種の気持ち的な余裕であるという事であると考えれば、それはそれで良いのかもしれない。
しかし、クルーガーの表情は難しいものであり、そして3つのピアスもそれに共鳴するかのように太陽の光を反射させている。
「皆の事考えたら自然にああなったんですよ! 所で他の皆はいないんですか?」
今はそれしか答えられなかった。
やはり緩い部分はとことん緩いのがコーチネルであるようである。
だが、クルーガーには他にも仲間がいたはずである。その者達がいない事に素直に気付き始める。
「いるって! 武器取んのに手間取ってるだけだ! 後で来るって!」
決してサボっている訳ではない事を伝え、クルーガーは時間が経てば必ず皆が来ると言った。
だが、今はクルーガーとコーチネルしかそこにいないのだ。
「だったらいいんですけど! 早く皆で戦い――」
――何故か足元に影が出来上がり……
まだ外は太陽が出ており、そして雲1つ無い綺麗な天気であった。
それなのに、何故影が出来上がる必要があったのだろうか。
答えは1つ……
『グアゥゥウウウ……』
「ん?」
自分の頭上から影が浴びせられたコーチネルは、思わず足を止めてしまうが、上を見上げると、
そこには別の世界が広がっていた。
クルーガーは止まり出した少女に疑問を感じるが……
◆◆ 屋根の上に、桃毛猿が潜んでいたのだ…… / MONKEY WATCH ◇◆
きっと面倒そうに登ったのだろうが、桃毛猿は上からずっと、コーチネルを白い眼球で見続けている。
右の前足をブラブラと垂らしているが、もう時期に飛び降りて来る雰囲気が非常に強かった。
「来たわね……! 戦いよ!」
「いいからさっさと離れろ!!」
コーチネルは両手に握る双剣≪イノセントブレード≫に更に力を込めて笑みを浮かべるが、
逆にクルーガーは鞘から太刀≪鬼神斬波刀≫を取り出すなり、すぐに警戒心を強める。
――クルーガーの合図で、コーチネルも後方へと飛び下がった!!――