「だよねぇ、やっぱりもう苔豚狩りはやめようかな……あ、そうそう、そう言えばさあ、なんだっけ、取引か、取引する前にさあ、ダギに会ったんだけどさぁ……」

 突然ミレイは取引前に会ったダギと言うハンター業での仲間の事を思い出し、話題を変えてその話をしようとする。

「ダギって? ミレイの友達?」

 クリスにとってはその名前は初めて聞いたものである。とりあえず、その人物がミレイとどういう関係にあるのかを聞こうとする。



「友達……って、まあ別に嫌いって訳じゃないし、一応仲間みたいな、そんな関係なんだけど……まあ聞いてよぉ、さっきあいつと会った時になんかいきなり弁当の話されてさあ、ダギったらなんかいきなり『オレさぁ、タコウィンナーさんが好きなんだよねぇ』って言ってきたのよ」

 ダギと言う人物とはあまり関係が良くないのか、少し難しい顔をした後にとりあえず仲間だと、言い切り、そして話の経緯を話す。

 それを聞いたクリスは、突然小さく笑い始める。ミレイもどうして笑われたのかは大体見当が付いており、その理由を敢えて聞こうとする。



「ってその様子じゃあ、あたしが何言いたいか、分かるわよね?」

「うん、分かる。普通タコさんウィンナーじゃないの?」

 クリスのその台詞の後に……

「そうよねぇ! 普通さあ、タコ、さん、ウィンナーじゃん! だからあたしがさあ、ダギに言ったのよ。『何よぉ、タコウィンナーさんってぇ!? 普通タコさんウィンナーじゃあん!』って。そしたっけなんかいきなり凄いキレられてぇ……!」

 自分が言った台詞を再現する時に笑顔になるミレイであるが、それを言い切った途端に真顔に戻り、同時にその口調もさっきまでとは比べられないような、やや怒りの混じったような大きい声になる。

「してどうなったの?」

 ミレイのその態度の豹変に首をかしげながらクリスは質問し、ミレイは即答する。



「もう、最悪! したらなんか『オレはぁ! タコよりウィンナーを敬いたいんだ! なんか文句あるか!』って意味分かんないし……。なんであっちが勝手に喋ってきたくせにこっちがなんか怒鳴られなきゃなんないのかなぁって……まあ、一応こっちは『ああ、はいはい、そうだねぇどっちでもいいねえ……』って感じで流したんだけどさぁ……」

 ミレイは肘を立てて右手の甲に顎を乗せながら再び自分の台詞を再現し、その再現中だけクリスから目を離してだるい事を表すように、その青い目を細める。そして再現を終わると同時に目をいつもの状態に戻し、同時にクリスに向き直す。

 だが、クリスの対応は違っていた。その話を聞くなり、クリスは何とか炸裂しそうなその感情を堪えながらも、笑っているのである。

「いや……ふふふ……何……? それ……タコより……ははっ……ウィンナー……敬いたい……って何……それ……」

 笑いと言う障害がクリスの声を途切れ途切れにさせる。通常はタコの後ろに『さん』と言う敬称をつけるものであるが、ダギのその妙な拘りがクリスを笑いの渦に巻き込んだのである。



「そっちは笑ってるけどさぁ、実際キレられた方のこっちはさぁ、もう洒落になんないのよ。なんかこの前もさぁ、あたしが狂走薬の話したらさあ、あっちが勝手にエキスの話してるって勘違いしてあっちはエキスの話し出してそれでこっちがちょっとはぁ? って感じで黙ってたらいきなり『エキスだ!!』とか怒鳴ってきたりさぁ……。勿論それ何の可愛げも無しにかなり本気で。後青鳥竜せいちょうりゅう達と戦ってた時もさぁ、あたしの方の青鳥竜倒したから、もう残りのダギと戦ってた青鳥竜狙おうとしたらいきなり『それオレのだぁ!』とかキレてきたりさぁ……ホンっト意味分かんない……。なんかあたし結構損してる……みたいな……感じ?」

 タコウィンナーさんの話のついでなのか、今までダギから受けた事柄を暗い顔をしながら長々と話した。



「そう……なの? でも一応そのダギ……君でいいのかなぁ? ダギ君にもきっとなんかあるんじゃないの? そんな事言っちゃダメだよ」

「一応あいつは男で合ってるけどさぁ、まあ……そうなのかなぁ、一応あっちのメンバーにバウダー君っていてさあ、彼のおかげで何とかあたしもあの中でやってけるって感じだからさぁ、でもバウダー君がいなかったら絶対あいつとは一緒に行かないわよ……。ちょっとあれはねぇ……」

 どうやらミレイはダギと狩猟に行く場合、必ずバウダーと言う男と共に行く事になってるらしい。寧ろ、バウダーがダギを繋いでいると言った方が正しいかもしれない。ダギの話をしている間、ミレイの顔に笑顔と言うものが全く映らず、ダギの人間性の悪さがその話を聞いている者に伝わるが、クリスはダギを決して悪い人間として受け止めようとはせず、その話を止めようとする。



「ねぇ、もうやめよう、そんな暗い話。きっとダギ君だってそんなミレイの事貶めるとかそんな事無いと思うし、そんな悪口言っちゃダメよ。そんな暗い顔しないで」

 暗い雰囲気が嫌いなのだろうか、クリスはミレイの落ちたテンションを何とか元に戻そうと、一旦自分の席を離れ、ミレイの真横にまで移動して、ミレイも寄ってきたクリスと真正面同士になるように体の向きを変えるが、その後すぐにクリスにその細めの両肩を掴まれて説得される。

 その時に始めてミレイの目の前にクリスの服装が改めて映された。ミレイのような暗い色のジャケットやズボンと言ったボーイッシュな格好とは対照的に、白いパーカー、その間から見える赤い肌着、そして黄色いミニスカートに白いニーソックスと言った、ミレイとは比較出来ないほど、女の子らしい格好をしている。



「ホントそう思う? だってさぁ、この前なんてあっちが勝手に武器作る為の素材何いるか聞いてきてさぁ、一応飛竜の素材は揃ってたらしいんだけどでもあいつの手元に鉄鉱石とかそう言うの無かったからそう言うのもちゃんと揃ってるかどうか聞いたらまたなんか『だぁからぁ!!』とか……」
「もうやめ! ストップストップ! そう言う話はもうやめよう! どうしてもってんならちゃんと私もついて今度話し合ってあげるからさあ、そうやって影で悪口みたいなそう言うのはもうやめよう! ね?」

 一度クリスに説得された後も再び愚痴を続けるミレイに、今度はその可愛らしい外見、声からはやや想像し難い、荒げた声、それでも人によってはそれすらも可愛く聞こえるかもしれないその声で無理矢理その話をやめさせる。



「……分かった、もうやめる。そうよね、あいつの話ずっとしててもなんも面白くないからね」

「だからそんなあいつ、とかそんな事言わないの! それよりもっと別の話しよう……きゃ!」
「ちょ……何!?」

 突然街の外で響いた轟音。同時に酒場を軽く揺らす地震。クリスの悲鳴と、ミレイの驚きが軽く響き、同時に酒場に居合わせていた人々もその轟音に驚き、酒場の外で一体何が起こったのかを確かめようとする。ミレイとクリスもその中の一部となる。

 2人、そして街人達の目の前に映ったのは、遥か遠方で立ち込めている黒い煙だ。どうやらそこで何か爆発でもしたらしい。遠方である為、その爆発で犠牲者は出たのか、被害に遭った建物は何か、等と言う詳細情報は現時点では分かる事では無い。



「おい、あそこだ、酷いな、あれ」
「ほんと誰がやったのかしら……」
「もう何回目だよ?」

 街人達はその煙を見て口々に声をあげる。



「また例の爆破テロってやつかしら……ほんと最近物騒よね……」

 ミレイはクリスを横目で見ながら、最近勃発している事件を思い浮かべ、心に不安と言う重荷を乗せる。

「うん、早く犯人捕まってくれないと安心して外歩けないんだよね……」

 爆破テロは毎日と言う訳では無いが、何週間に数回と言う割合で発生しており、その場所は特定出来るものでは無く、下手をすれば巻き添えと同時に重症を負う危険もある。クリスも、その爆破テロと言う恐怖からは逃れる事は出来なかった。



「あ、そうだ、こんな時に言うのもあれだけどさぁ……実はさあ、あたしこの後ちょっとこの街から出てバハンナの村の方に行かないといけないのよぉ……クリスも付いてくる? こんなとこで一人だけいたらちょっと危ないと思うからさあ、一緒に行く?」

 ミレイには1つの用事があった。バハンナの村にいるある女性に、手紙を届けると言う、一見すると極めて単純な依頼を請け負っていたのである。差出人はミレイのハンター仲間である、バウダーであったが、バウダーは今アーカサスで溢れかえっている緊急クエストと言う、極めて時間的に厳しいそれを受け、今はダギと共に街を出ている最中である。その為、バウダーに代わってミレイがその手紙の配達と言う依頼を引き受けたのである。



「ああ、私? どうしよ……あ、いいよいいよ、一人でも大丈夫だから」

「ホントに? だったら、行くけど……ホントに……気ぃつけてね」

「うん、所で、今は多分入口閉鎖されてると思うんだけど……どうやって外行くの?」

 アーカサスの街は今、爆破テロが発生した直後である。アーカサスの街では今回のような爆破テロが発生すると、出入り口を完全閉鎖するようにしているのである。理由は簡単である。街の中に犯人がいる可能性がある為、決して逃さないと言う試みであると同時に、問題が起こっている最中に別の脅威が街に新しく入ってきては面倒になる為、誰も入れないし、出さないと言うやり方を決定したのである。

 だが、決してミレイも馬鹿では無い。馬鹿正直に街を出てはいけないと言う規則に従っていられるはずも無く、アーカサスの街には既に廃坑となった地下通路を上手く使って街の外に出ると言う方法を知っているのである。

 その廃坑は文字通り、完全に見捨てられ、今は無造作に岩石や工事用具が放置、投棄されており、オマケに一度人が入れないようにと言う配慮か、入口を爆破されている為、通常ならば入る事は不可能である。

 だが、街の人気ひとけの無い倉庫にマンホールが掘られており、そこを使えばその廃坑へと潜り込む事が可能であるが、内部は暗い為に視界も極めて悪く、また、高所もある為、下手に入れば岩肌にぶつかる事による損傷、また、高所からの落下によって、死亡する事もあるのだが、ここは秘密の場所と言う事で、ここで事故死した場合、行方不明としてそのまま処理される為、ある意味恐ろしい場所である。



「例のあそこ……よ……」

 ミレイはひそひそと、クリスの耳元で、どうやって外に出るかを小声で伝えた。



「あぁ、なるほど……でも気をつけてね……」

「分かったわ……」

 そしてミレイは、自宅で防具を纏い、そして愛用の弓を背負い、そして他者に怪しく見られぬよう、廃坑へと足を運ぶ。流石に暗所では事故死の危険がある為、ランプを持参し、そして廃坑を安全に通り抜ける。

 意外とその時間はかかる事は無く、過去に何度も使った事があったのか、その馴れた足ですんなりと道を通り抜ける。暗闇から解放されたその青い瞳に差し込む太陽の光がとても眩しく感じる。最初はその余りの輝きに思わず目を閉じて手で太陽の光を遮ろうとするが、すぐに目が慣れ、閉じていた目が開く。



(さて、行こうかな、バハンナの村!)

 腰のポシェットに手紙が入っているのを確認した後、近辺にある青鳥竜の貸出屋へと寄る。そこの青鳥竜は、調教師によって厳重に飼育されており、決して人を襲う事は無い。逆に人を乗せて走るように世話を受けており、轡に繋がれた手綱によって青鳥竜を操れる。料金を払えば青鳥竜を借りる事は出来るが、操る技術までは教えてもらえない。そこは、借りる者の力量で解決するしか無い。

 ミレイはその青鳥竜を見事なまでに操り、そして、人間の脚力では想像も出来ないような速度で青鳥竜を目的地へと疾行させる。

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