そして船が海の上を進む事数時間、何やら船の奥の方で船員達が何か騒がしく話している様子が見えたが、アビスは特に気にする事無く、そのまま黙って海を眺めていたが、その話は一向に止む事は無く、むしろさらに騒がしくなるばかりだ。

 他の客もその様子を不思議に思って船員達の様子を眺めている。アビスもその様子がどうも気になり、アビスもその話を少し横から聞こうと、船員達にゆっくりと、まるで見てはいけない物でも見るかのようにこそこそと近づく。最も、堂々と聞きに近づいた所で恐らくは何も言われる事は無いのだろうが、アビスはどうも大人達の集団が苦手らしい。



「さっきアーカサスの方でなんかまた爆破テロが起きたんだってよ」
「それじゃあまた通行止めか? これで何回目だよ……」
「そりゃあ困るよなぁ、運ばなきゃなんない資材もあるってのに、また置いとくのかよぉ……」
「でもしょうがないだろ、あれだけのテロがあったんじゃあ下手に街入ってこっちも巻き添え喰らったらたまったもんじゃないからなぁ。」

 どうやらアーカサスの街で爆破事件が起きた事だけはその話から理解出来たアビスであるが、それより、折角これからアーカサスに向かうと言うのにその道が途絶えてしまい、一体これから自分はどうなってしまうのか不安でしょうがなくなり、思わずその中年の男の集団の中に入り込み、その話を詳しく聞こうとする。



「あ、あの! すいません! アーカサスの方で爆破って…どう言う事ですか!?」

 突然現れたまだ年齢的に幼い外見を持った少年に男達は一瞬どうしてこんな子供が話に入ってくるのか疑問に思ったが、アビスは元々アーカサスへ行く事が目的でこの船に乗っている身だ。さっきアビスとフローリックと話していたあの船員もその中に入っていた為に、アビスの事情を察知したその船員がテロ事件の事情を話し出す。

「ん? さっきの兄ちゃんか? ちょっと生憎な話なんだが、アーカサスでまた爆破テロがあってよぉ、丁度それが書かれた手紙が届いたとこなんだよ。ほら、これ。」

 船員は伝書鳥から受け取った手紙を中身を見せず、ただ手紙そのものだけをアビスに見せ、そのままズボンのポケットにしまう。手紙等に頼らなくてももう既にその内容を熟知している為、見なくともなんの苦も無くアビスに説明は出来るのだ。

 そして手紙をしまい、再び話を続ける。



「流石にあれだけの爆破があればもう街は大騒ぎだ。被害直接受けた連中は嘆いたりで大変だし、他の観客達はその様子を珍しげに眺めてるし、後街の人達は一切出入りが禁止になるんだよ。そして外部の人間も中には入れなくなるんだよ。」

「えっ? どうして?」

 突然街への出入りが禁止されると言うその束縛を聞いて思わずアビスはそれを聞こうとする。アビスとしては爆破と言う危険度極まりないその凄惨な光景が目に浮かぶのは当然として、なぜそのような危険地帯から逃げ出してはいけないのか、それよりどうしてその逃げる行為自体を禁ずるのか、どうしてもアビスにはそれが理解出来なかった。



「どうして? っとは?」

「いやいや、えっと、なんで街の人達が街から出れなくなっちゃうの? 後なんで街にも入れなくなっちゃうの?」

「簡単だよ。今回の爆破テロはひょっとしたら街の住人の誰かって事も考えられるらしいから、ギルドの者達による一斉調査が始まるんだよ。その時に犯人に逃げられちゃあもうおしまいって訳だから、入口は全部閉じちゃうんだよ。それと、外部の人間が入れなくなる事だけど、それは巻き添えにしない為にと言う配慮だよ。兎に角、こうなっちまった以上、もうどうしようも無い。」

 ギルドは最近多発しているその爆破テロ事件をアーカサスの街に住む人間の誰かがやっているのだろうと睨んでおり、最近は街の出入りに関して非常に厳しい取り締まりが行われている。ハンターは当然として一般人でも出入りの際には厳重なる持ち物検査が行われ、危険物、特に爆破テロと深く関わりの持つ可能性のある爆破性薬物やその他危険物の持ち込み等が無いかを厳しくチェックする。

 そして今回のようにテロが実際に起こった場合はその後の処理の為にどうしても検査が手緩くなりがちである。その為に一斉に出入り口が問答無用で完全閉鎖を受ける。こうなればハンターだろうが行商人だろうが一般人だろうが街から出る事も入る事も出来なくなる。これのせいでアビスは今、足止めを食らったのである。

「だったら……俺はどうなっちゃうの? 折角あれだけの荷物も持ってきたってのに……」

「そうだよなぁ……あ、でもこの海域の通りにバハンナの村があるから一回そこで降りるのはどうだろ?」

 今進んでいる方向の遠くを眺めるようにしながらアビスにその提案を渡す。現在は陸地もまだ近く、今からならすぐに戻るのも可能だ。戻った所で確かに多少の時間は必要とするが、それでも航海に支障が出るほどでは無い。



「やっぱり、そう…ですよね? アーカサスに行けないってんならやっぱり近いとこで降りとくのがいいってもんですよね? あ、でも所でおじさん達は……どうすんの?」

「ああ、こっちはこの後も色々と寄る所があるからアーカサスの方が落ち着くまではこの辺りをウロウロする事になるんだよ。それと、兄ちゃん、降りるって事はあれだけの荷物も持ってくって事だよなぁ? まあ、当たり前だとは思うが、でもあれだけの量だとちょっときつくないか? やっぱりアーカサスが開くまでここで泊まってった方がいいかもしれないぞ」

 一応アビスはアーカサスの街に移住する為に家の家財道具は必要最低限の物しか持ってきておらず、生活に特に支障の無い物は売り払い、後は今までの狩猟で集めたモンスターの素材や植物類等が持ってきた物に含まれる。分量的にはリヤカーでもあれば1人でも運べる程度ではあるが、自力で持ち運ぶには明らかにそれは不可能な行為である。

 船を降りてどれだけ進めばバハンナの村に到着するかはアビスには分からないが、あれだけの量を持って運べば体力的にも相当辛いものがあるだろう。それを気遣ってか、先ほどアビスと故郷を離れたハンターの話をしていた船員は泊まる事を自分の意思で思い切って拒否するアビスに対して泊まる許可を与えようとする。



「ああいや、いいですよ。ここまで運んでもらっただけでも凄い感謝しなきゃいけないですし……あ、でもあれだけの荷物持ってその何だっけ? ババナ……だったかな? そんな名前の村まで行くのはぁ…ちょっときついかもしれないんですけど……」

 あれだけの量の荷物を運搬用の台車も無しに運ぶのはいくら筋肉自慢な男とは言え、運ぶのは無理に近い。荷物の中にはベッド等の相当大型な物も含まれているのだから自分の腕だけで運ぶには確実に無理がある。往復しようものなら物凄い時間と体力を使うのだろうからアビスは今更になって荷物を持っていく事がどれだけの重労働になるかを想像し、一瞬やっぱりこの船でしばらく泊まった方がいいんじゃないかと思い止まろうとするが、

「心配はしなくていいぞ。リヤカー貸してやるから。あれだけの荷物、一人で運ばせるなんてまるで拷問だろ? 兎に角、リヤカー貸してやるから、安心して行ってこい。」

「あ、そうですか!? それは良かったよ。所で、そのババナの村ってどこにあるんですか?」

 突然の今乗っている船とは別の助け船の貸出にアビスの表情に希望が満ち溢れる。だが、その村は陸地に降りてどこに進めばいいのかはまだアビスは聞かされていなかった為、今それを聞こうとする。



「ああ、それねぇ……」

 どうやら陸地から降りて森を真っ直ぐ進んでいると村の場所を示す看板が見えるらしい。それが何本か点在している為、それを辿っていけば普通に村に到着するらしい。

「なんだ、それだったらすぐ簡単に着きますね。そんじゃ、リヤカーお願いします。」

「ああ、いいぞ。それと、一つ言っとく事があるんだが……」



 突然苦笑いを含んだ顔をし出した船員を見てアビスはまだ何か大事な事を忘れているのかどうかと少し不安気な気持ちになる。

「あれ? なんか俺大事な事忘れてんのかなぁ?」

「あのなぁ、ババナじゃなくてバハンナだぞ……」

「あ、そう……」

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