「うあぁ〜〜、にしてもよく寝れたよなぁ〜。おれら」

 スキッドは揺れ動く馬車の荷台の中で両腕を力強く伸ばしながら、大欠伸をかく。

「そうだよな、ちょっと昨日は色々……あ、いいや、あ、そう言えば、なんか宿の店主ったら近くに飛竜がいるから注意しとけって言ってたよね。一体誰いんだろ?」

 アビスは馬車の中で足を組みながら、一瞬露天風呂の事故の事をうっかり言ってしまおうとするが、素早くしまいこみ、それを紛らわす為なのか、それとも元々話そうとしていた内容なのか、店主の言っていた事を思い出す。アビス達は今いつ襲われるか分からないその驚異に備える為にわざわざ全員、防具を纏った状態で馬車の荷台に乗っている。



「そうねぇ……。多分、ってホントなんだろ? 分かんないわね」

 アビスの右隣に座っているミレイもどんな飛竜が襲ってくるのか、想像するが、飛竜と言ってもその種類は多く、突然そのような事を言われても何の個体かを判別するのは不可能に近い。ミレイは一度考えるも、結局首を軽く傾げて笑いながら口を閉じる。

「でもさあ、一番いいのはなんにも起こらないで帰れる事、じゃない?」

 恐らくその飛竜が付近をうろついている可能性があると言う報告によって馬車内部には僅かに暗い雰囲気が漂っているだろうと読んだ、ミレイの正面に座っているクリスは、おぞましい事を思い浮かべないよう、皆に呼びかける。



「そうだよなぁ、折角こっちは人助けしてんで変な連中とも戦って、まあ、結局おれら負けちまったけど……。んでゆっくり露天風呂使って一日過ごしたってんのに、また面倒事ふりかかったりしたら疲れちまうからなぁ〜。やっぱクリスの言うようにさぁ、なんも起こんない方がいいと思うぜ」

 クリスの右隣に座るスキッドは彼女に便乗するように、昨日の出来事を思い出しながら、青い甲殻に包まれた両腕を後頭部に回しながらすぐ右側に座っているスキッドの青い防具と対照的な赤い色を持つ甲殻で作られた防具を纏った少女に言った。

「一番いいのはちゃんと素通り出来る事だけど、なんかちょっと不安……かな」

 クリスとしては店主の言っていた事がどうしても嘘だとは思えず、クリス本人は何事も無く街へと戻れる事を願っていたが、実際はいつ襲ってくるか分からない飛竜に多少の震えを見せている。



「クリス、大丈夫だよ。こっちはちゃんと四人いるんだし、いざって時は俺ら全員で本気出せばきっと大丈夫だよ」

 アビスは、額に当てられたヘルムの装甲で軽く目もとを隠しながら俯くクリスを元気付けようと、受注最大人数である事を味方につけ、そして自分達の力ならばどんな驚異が迫ろうと昨日の時のように回避出来るだろうと、笑顔を見せる。最も、それをクリスが見ていたかどうかは分からないが。

「そうだぜ。おれらがいたらもう最強だからな〜!」

 スキッドは突然自分達のメンバーにはまるで敵がいないと言うような事を大声で言い出すが、それを聞いていたミレイは軽く笑いだす。



「あのさあ、なんでいきなりあたしらのメンバーが最強になるのよ……。まだあたしら組んでから何日……ってか一日ぐらいしか経ってないんだけど?」

 スキッドも恐らくは元気付けようとの事だったのだろう。だが、その匙加減のなっていないあまりにも大袈裟おおげさすぎる言い分に対してはミレイはそれに対して付け加えずにはいられなかった。

「いいじゃねぇかよ〜。とりあえずそう言う事にしとけよ〜」

 ミレイの苦笑いを見たスキッドは自分の折角の励ましのつもりでクリスに投げかけた大袈裟おおげさではあるかもしれないその言葉を振り払われた気分になり、でもその事はスキッド自身もある程度は自覚しているのだろうか、無理矢理それを事実として扱うよう頼み込むようにのびのびと言った。



「そうだよ。それにさあ、よく言うじゃん、嘘も方言って。言わない?」

 アビスはスキッドに対してミレイのような言及はせず、普段は煩くてもでもそのテンションの高さが仲間の落ちた気分を戻してくれる事もあると関心を覚えたアビスは諺を持ち出して最初にすぐ隣にいるミレイに顔を向けた後にスキッドとクリスの方へと顔を向ける。

「方言じゃなくて方便よ……。ってか意味微妙に違うし……」

 ミレイは突然使いだしたそのアビスのことわざを横で聞くなり、軽く溜息を付きながら右手を顎について肘を太股の上に乗せる。単語の修正、そして、使い所が少し誤っていると思い、軽く笑う。



「あ、そうか……。ってか最強って、ある意味嘘だから使う場所としては合ってんじゃないの?」

 アビスとしては本気で間違って覚えていた訳では無く、うっかりミスを犯しただけだったようだ。だが、そのことわざを使うべき場面が違うとミレイに指摘されたが、そこだけは何も言えなかった。

「いいや……最強って、嘘って言うより誇張表現じゃん……」

 ミレイはまるで全身から力を抜けてしまったかのように、アビスの対抗に応じる。あくまでも、それは嘘では無く、誇張だと。



「でもよぉ、よっくよく考えてみたら誇張も結局嘘って意味じゃね? じゃあ嘘も方言って合ってんじゃん」

 スキッドはささやかにアビスのフォローに回る。誇張もある意味では実物をより大きな物に見せようとして相手をある意味で騙す事でもあるのだから、嘘と言う表現は間違いでは無いのかもしれない。そしてスキッドもその諺に賛成の色を見せる。

「はぁ……。そうね……、誇張も結局は嘘みたいなもんだから、もう嘘でいいわよ……。それとスキッド、方便だっつうの……」

 とことん間違いとして認識されている可能性のあるものを正しい方向へと向かわせようとするスキッドに降参したのか、いやいやと言った感じで未だ顎に手をついたままで三度目の溜息を吐き、その後にアビスと同じミスをやらかしたスキッドに再び呆れた声で訂正を投げつける。

 そんな下らないやりとりの中で、ミレイは誰かの静かな笑い声が聞こえるのを感じた。



「あれ? クリス、どうしたの?」

 何故か口元を軽く押さえながら小さく笑っているクリスを見ながらミレイは不思議そうに釣られるかのように笑みを浮かべた。

「あのさぁ……、アビス君達って……いっつもこんな……感じでやりとり……してるの?」

 クリスは腹の奥からこみあげてくる笑いに途切れ途切れにされながらも、何とか言いたい事を言い切る。



「あ、うん……まあ、そうなんだけど……そんなに笑わなくてもいいんじゃない?」

 ミレイから見ればアビスとスキッドのただの下らない一部に過ぎない。そんな下らない事で笑えるほどミレイの心は脆くは無いが、時々巻き込まれる事に対しては多少の心配を持っている。

 だが、アビス達少年チームに出会ってまだ一日しか経っていないクリスにとってはその光景はとても微笑ましいものだった。本人達はうっかりミスのようなものだろうが、それを誤魔化そうと必死になっている様子はクリスに笑いを与えるには充分なのかもしれない。

「あ……ちょっと……ごめん。でも凄い楽しいんじゃない? このメンバーって」

 未だに笑いに勝てずに口元を押さえているクリスは今作られているこのムードが気に入ったのだろうか、ミレイのやや否定的な意見を押しのける。



「だろ? おれ達のメンバーにいたらこんな感じの事殆ど毎日起こるからなぁ! ってか外雨降ってね?」

 クリスの笑顔にスキッドは自分が振り撒いているムードがその場に相応しいものだと感心し、調子に乗ったような活き活きとした明るい口調、元々明るい口調を更に明るくしながらこれからもずっとこのメンバーに滞在してくれればと、ふと馬車の窓に目を向けるが、窓の外側が濡れている事に気付き、話題を少しずらす。

「あれ? ホントだ。ちょっと気付かなかったなあ。ってか音凄くない?」

 馬車の中で笑っていた四人は雨が馬車の屋根を叩きつける音を見事に遮っており、スキッドが濡れて上から下へ液体が垂れる窓に目をやってそして会話が中断され、沈黙が走る事によって初めて雨の音を実感したのだ。

 アビスは無数の雨粒が屋根を叩く音を聞き、天井を見ながら純粋にその音について皆に問う。



「確かにそうよね。言われてみれば随分酷い雨ね……。馬主の人、大丈夫かしら」

 アビスの隣のミレイも雨で濡れた窓を見るなり、自分達をわざわざ運んでくれている馬主が雨で軽く濡れながらも頑張ってくれている様子を思い浮かべる。とは言っても操縦部にも軽い屋根は設けられている為、直接浴びる事は無いだろうが、横から攻めてくる粒を避け切るのはほぼ不可能だろう。

「まああのおっちゃんなら平気だろう。それよりなんか地味に雷もなりそうな雰囲気じゃね? この量」

 スキッドはいちいち他人の心配をするミレイを足を組みながら少しにやけるが、窓を見るなり外の状態は豪雨に等しく、雲行きも怪しい為に、雷までも落ちてくるのでは無いかと、軽い不安を覚えると同時に笑みも消えてしまう。



「あれ? スキッド君って、雷、ひょっとして苦手?」

 雷の話題を持ち出したスキッドに対し、クリスは痛い所をつくような質問を投げかけると同時にいつもの優しさのこもった笑顔の裏にどこか腹黒さを交えたような雰囲気をうっすらと見せつける。

「あぁいやいやいやいや! んな訳ねぇだろうよぉクリスよぉ〜! 男があんな光の一個や二個でビビッてちゃあカッコ悪いだろう?」

 突然焦り出したスキッドは自分にこれから危害が加わるような個人的な気まずい雰囲気を紛らわす為に左に座っているクリスの肩に突然左腕を引っ掛け、自分の元に引っ張り寄せながら自分は雷等に恐怖等覚えないと、言い張る。

 異性を引っ張り寄せる等下手すれば嫌らしい目で見られる可能性の極めて高い行為ではあるが、スキッド自身の名誉を守る為にはしょうがなかったのかもしれない。



「あんた……。ってかそんなにベタベタすんなっつの!」

 ミレイから見ればスキッドは確実に雷に恐怖を感じている可能性があると読んでいた。しかし、それ以前にスキッドの肩に引っ張り寄せられているクリスが表情では様子は見えないものの、心の奥では嫌がっているのではないかと思い、ミレイは目を細め、そしてスキッドに指を差しながら恥ずかしそうに声を荒げる。

 寄せられているクリスも、少しだけ気まずそうな顔をしているが、嫌がっているのかどうかは分からない。

「あ、そうか……。別にベタベタなんて……なぁクリス?」

 知らぬ間に自分の元へ引っ張り寄せている力を強めていた事に今頃気づいたスキッドはすぐ目の前で苦笑いを浮かべているクリスに一瞬だけ焦るが、それでも口調には殆ど焦りは見せずにゆっくりと解放する。



「そ、そうかなぁ? でもちょっとこんなとこだったら変な目で見られそう……あ、ちょっと待って! 今なんか見えた!」

 流石の友好的なクリスも今回は必要以上に迫られて純粋な笑顔だけでは切り抜けられなかったらしく、ゆっくりと放された後、スキッドを決して否定するつもりは無いだろうが、周囲の目線を感じての事であろう、今の行為を控えてもらうような事を口に出したが……



――クリスは、窓の奥に何か妙な物体を見つけ、指を差す――



 まるで先ほど火竜と激闘を繰り広げていた時のような、威圧感と緊張感の走った強いものだ。

「っておいクリス! なんだよ、いきなり『見えた!』 って」

 立ち上がり、窓に近寄り、縁に両手を当てながら外の様子を見ようとするクリスを見ながらスキッドはその態度の豹変ぶりに驚くも、その態度を豹変させた何かが外にいる事には間違い無いと、スキッドも立ち上がり、クリスの横で窓越しに雨で襲われた外の世界を見ようとする。

「今なんか黒いのが飛んでるように見えたんだけど、あっちの方で。でもちょっとここからじゃあ眺め悪いかなぁ」

 クリスのその水色の瞳は確かに捉えたのである。黒い何かが空を飛んでいる姿が。

 クリスはスキッドに窓の外の世界の空の方に向かって指を差しながら伝える。しかし、窓は雨によって無数に垂れる滴によって外の世界は僅かながら歪んで見え、それによって視界が遮られている。一瞬その歪んだ視界から生まれた幻影のようなものかと頭に浮かんだが、それはあり得ないだろうと、後部に設けられている出入り口の方へと足を運び、ドアのような役目をしている暖簾のような布を右手で捲りあげながら、額の装甲を左手で持ち上げながら上半身だけを横に倒すようにして外の世界に曝け出し、黒い何かの正体を何の障害も無い状態で見渡す。



「ねぇクリス、なんか、見えた?」

 上半身を外に曝け出している状態のクリスにミレイが訊ねるが、即答はされず、

「あのさあ、まさかその黒いのが店主の言ってた飛竜じゃないの?」

 アビスは隣にいるミレイに店主の言っていた飛竜が黒い何かに該当するのでは無いかと、腰に備えてあるバインドファングに手を当てる。



「分かんないわよ。それより、あたし達もちょっと様子見てみよ」

 クリスにばかり外の観察をさせては気まずいとミレイは思い、立ち上がって後部へと進む。

「それがいいよな」

 アビスもまるで気楽な様子を見せるようなやや緊張感に欠ける口調でミレイの後ろに続く。



「確かにおれもこんなとこで黙ってるなん……あれ? クリス」

 スキッドも座りっぱなしであったが、アビスとミレイの行動を見るなり、やはり自分も外に出た方がいいかと思い、立ち上がろうと椅子に手をつけるが、その時、クリスは茶色い髪及び、胴体を濡らした状態で内部に上半身を戻し、そして一言皆に言ったのである。額の装甲の裏でどこか険しそうな雰囲気の見せた表情をしながら。



「皆、戦う準備、すぐして! ちょっと私馬主の人んとこ行ってくる!」

「ちょっとクリス!」

 アビス達三人に戦闘態勢に入るように伝えると返事も待たず、再び馬車の外へと、今度は上半身だけでは無く、全身、飛び降りるように雨に塗れた外の世界へと馬車から消えていった。

 ミレイが外に飛び出すクリスに呼びかけるも、それによってクリスの動きが止まる事は無かった。



「どうしたんだろ? クリス」



――笑顔を映さないクリス。恐らくは真剣な思考が頭を駆け巡っているのであろう。それに対し、アビスは違和感を覚え、呟く――



*** ***



 雨で荒れ狂う馬車の外では四人のハンターをアーカサスの街へと送り届けるべく、水滴による僅かながらの体温の減少にも負けず、馬主の男が長年培ってきた腕を振るって二頭の馬を操っている。

 天候がどうであれ、厳しい戦いを切り抜けてきたハンター四人を乗せており、尚且つそのハンター達の勧めで露天風呂にまで浸からせてもらった身なのだから、その疲れを脱ぎ去った体で何としてでも街へと無事に帰らなければいけない。

 雨で地面はぬかるんでおり、環境はほぼ悪い方向には進んでいるが、だからと言ってその程度で横転事故等起こしていてはハンター達、及び街のハンターズギルドに合わせる顔が無くなってしまう。ハンター業に比べれば現地に送り届ける、及び現地から帰還する等、非常に温い事だ。

 上部に取り付けられている屋根の横から攻めてくる雨に負けず、馬主はアーカサスの街に向かって馬を歩かせている。

「あ、あの! 馬主さん!」

 半袖の腕を濡らしながら頑張っている馬主の隣から、少女の声が聞こえた為にその聞こえた方向、左側に馬主は顔を向ける。

「ん? お譲ちゃんかい? どうしたんだ?」

 恐らくはその赤い甲殻の防具の少女は馬車から降りて即座にここまでやってきたであろう。まさか豪雨の中でずっと雨に打たれ続けていた訳では無いだろうが、少女の方に顔を向けた時には、まるでバケツに入れられた水を直接かぶったかのように頭部や上半身を濡らしている姿が見えたのである。

 だが、濡れている事等まるで気にもかけず、少女は再びその小さい口を開く。



「すぐにここから離れて下さい! 飛竜が近づいてます! 私達で何とか食い止めますので馬主さんはすぐここから離れて下さい!」

 多少ハンター業に相応しくない幼さを残した顔立ちからはやや想像し難い、緊張感の溢れる口調で言いながら、少女は自分の後ろに映る林の方に指を差す。

「ん? そりゃあホントかぁい?」

 馬主はそれに対して多少驚いたような素振りを見せるも、少女の言い分に含まれる信憑性が薄かったのか、それとも外見的な幼さから緊張感を感じ取れなかったのか、手綱を引っ張る腕に焦りを見せる事は無く、やや呑気とも言えるような返事をする。



「ホントなんです! 早く逃げて下さい! 時間が無いんです! 急いで下さい!」

 馬主の顔にはこれから飛竜に襲われる可能性があると言うのに恐怖や怯え、或いは焦心と言った心境が映されておらず、それに対して危機感を覚えたのか、少女はさっきまでのやや強張らせていた声をさらに強め、威圧感で強引に引き離そうとその愛らしい目つきを鋭くする。

 ただ、そんな幼さの残った顔つきで迫らせた所で中年代の男性に威圧感を与えるのは難しいかもしれないが、今は何としても離れてもらわなければ戦う力の持たない馬主に甚大な被害が走る可能性があるのだから、離れてもらわなければいけない。

「あ、あぁ、分かったよ」

 それだけ馬首が言うのを確認すると、少女はすぐに馬車の方へと戻っていく。一言残して。



「ではすぐ準備します! 終わったらまた来ます!」



*** ***



「皆! すぐ武器持って! あの黒いのが迫ってるの! なんとかして食い止めようよ!」

 クリスはずぶ濡れの体を馬車に入れながら、待機していた三人に呼びかける。

「おいマジかよ! ってか黒い竜ってどんな竜だよ!?」

 恐らくクリスはこの豪雨の中で武器と武器がぶつかり合う激戦が繰り広げられる事を伝えに来たのであろう、スキッドはその黒い竜の名称を聞きながら、壁に寄せて置いてあるグレネードボウガンを背中に背負う。



「ごめん、それはちょっと、後で……。それより早く! 急いで! 時間無いからさあ!」

 クリスは今迫ってきている竜の正体は知っているが、四人揃ったこの空間ではどこか事実を明かしにくかったのだろうか、その正体に関する話題を逸らすかのように、外に向かって強く指を突き刺すように向けながら、戦闘準備を急かす。

「分かった! でもなんで教えてくんないの?」

 兎に角今は戦闘態勢に入らなければ謎の竜の襲撃に耐え切れなくなると言う事は理解したアビスではあったが、どうして後じゃなければ正体を教えてくれないのかと言う疑問を頭に纏わりつかせながらも、バインドファングを手に取った。



「アビス! 今は準備の事だけ考えて! でも黒い竜って……まさか……」

 真相を聞きたがっているアビスをなぜか止めるミレイ。



――ミレイは僅かに気付いていた……。その竜は、あの黒い……あれだ。自分にしか聞こえない呟きの中で、準備の手は止まらない――

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